よしながふみのマンガ『大奥』が全19巻で完結!一気読みしましたので、徳川将軍を中心にどのような内容だったのかまとめていきます。
そしてNHKのドラマ10「大奥」として、再度ドラマ化されています。本当に魅力のある原作なので、ぜひドラマと共にマンガも読んでほしいと思います!
※史実と絡めてもいきたいので、ネタバレがありますので注意してください。ただネタバレがあってもおもしろいシリーズですし、知っておいたほうが深く楽しめる内容になっていると思います。
- 8代将軍・徳川吉宗
- 3代将軍・徳川家光
- 4代将軍・徳川家綱
- 5代将軍・徳川綱吉
- 忠臣蔵
- 6代将軍・徳川家宣
- 江島生島事件
- 7代将軍・徳川家継
- 9代将軍・徳川家重
- 10代将軍・徳川家治
- 11代将軍・徳川家斉
- 12代将軍・徳川家慶
- 13代将軍・徳川家定
- 14代将軍・徳川家茂
- 15代将軍・徳川慶喜
- 歴史漫画としてSF漫画として秀逸!
8代将軍・徳川吉宗
徳川吉宗は倹約家として登場し、いきなり女中をクビにしてしまいました。リストラですね。財政を立て直そうと、かなり強い意思を持っていることがわかります。
1巻では、徳川吉宗と大奥にやってきた水野祐之進との関係性が軸に描かれていきます。水野は周囲に嫉妬をよそに出世していきますが、それは大奥の総取りによる誘導でした。将軍と初めて夜を伴にする男子は、その後、死罪になるという制度があったのです。
水野は覚悟を決めて、吉宗との初夜を迎えます。そして吉宗が下した温情とは…?
吉宗と水野の切ない恋心。この1巻の恋愛模様がすばらしく、大奥の世界に一気に引き込まれてしまうと思います。
なお吉宗は史実では、
- 目安箱を設置
- 町火消し組合を創設
- 小石川養生所を設置
- 洋書輸入を解禁
- 蘭学興隆の基礎を築く
- 女に手が早かった
といったように偉業も多ければ豪快さもあったようです。
そして吉宗は徳川に伝わる『没日録』を手にします。そこには、女性将軍ではない時代があったことが記されていました。
物語は過去にさかぼっていきます。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川吉宗(冨永愛)
- 水野祐之進(中島裕翔)
- 藤波(片岡愛之助)
- 杉下(風間俊介)
3代将軍・徳川家光
家光の時代で、赤面疱瘡で男子の数が激減し、女将軍に入れ替わります。
家光は緊縮政策をとり、大奥の人員整理を行って、解雇した100名を吉原に送り込みました。将軍の最初の男「御内証の方」が死罪となるのを決めたのは家光です。
坊主から大奥の大奥総取締になった万里小路有功(までのこうじありこと)を思うあまりの行動でした。有功のモデルは、家光の側室「お万の方(栄光院)」。
そして存在感があるのは、春日局(かすがのつぼね)です。春日局は史実どおり、女性として登場します。父は明智光秀の家臣で、山崎の戦いから落ち延びました。その後、稲葉正成と婚約し、家光の乳母になっていきます。65歳で死亡するまで、家光に影響を与えました。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家光(堀田真由)
- 万里小路有功(福士蒼汰)
- 春日局(斉藤由貴)
4代将軍・徳川家綱
家綱は11歳で即位。この時代には、家光死去の直後に、浪人の由井正雪や丸橋忠弥らによる討幕未遂事件(慶安の変)が起こり、政情が不安定になっていました。また、 江戸で「明暦の大火」が起こりました。
5代将軍・徳川綱吉
かなり美人として登場するのが綱吉。大名家46の取り潰しを行いました。
牧野成貞事件は、綱吉が最初の男である亜久里(牧野邦久)と再会することで起こりました。亜久里と男女の関係を持つことで、亜久里とその妻も心理的にツラい状況に追い込みます。そして、亜久里が憔悴したら、綱吉はその息子・貞安に目をつけるのです。
史実として、男女逆転なのですが、ゴシップ的な話だったようです。
そして綱吉は娘の松姫が死去してから、子供が生まれなくなってしまいました。家光の側室で、5代将軍・綱吉の生母である桂昌院が支える体制。子供が生まれないのは、桂昌院が幼いころに、子猫を殺したことが原因だと、僧侶から助言をもらいました。
これが「生類憐れみの令」につながります。
貨幣を改鋳して悪貨を世にあふれさせるなど、失政があったこともあり、貧困にあえぐ人がいたなか、動物の命を大事に扱うことに矛盾を感じる人もいたようです。
綱吉暗殺をもくろみながら、世の実状を訴える場面は、かなり身につまされました。綱吉は、紀州ではなく、甲府の綱豊を世継ぎにして、麻疹で亡くなりました。
大奥総取締役の座についた右衛門佐が、なかなか曲者。桂昌院と対立しながらも手球にとっていきます。ここで柳沢吉保が、まぁかなり恐ろしさを発揮。右衛門佐と柳沢吉保の会話は、迫力ありでした。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川綱吉(仲里依紗)
- 右衛門佐(山本耕史)
- 玉栄=桂昌院(竜雷太)
- 柳沢吉保(倉科カナ)
忠臣蔵
忠臣蔵も男女逆転で描きます。朝廷からの勅使を迎えるために、浅野内匠頭は700両以上は出せぬと、吉良上野介の提案を拒否。殿中で老婆の吉良上野介に刃傷事件を起こし、即日切腹。御家は断絶されることになりました。
そこで赤穂藩の家老・大石内蔵助らは仇討を決意します。有名な赤穂浪士の討ち入り事件へ。
見栄だけで斬りつけたと男のつまらなぬ自尊心だと解釈しているのが、いまの時代に合っているなと。忠臣蔵だけ読んでもよしながふみの『大奥』の視点の鋭さがわかります。
6代将軍・徳川家宣
家宣は、生類憐れみの令を廃止するなど、民衆の指示を得ます。だが、病弱な体に鞭打って出産し、わずか政権3年で幕を閉じてしまいます。
江戸の町でやさぐれた暮らしをしていた勝田左京は、間部詮房によって拾われて、大奥へ。勝田は間部に淡い恋心を抱きます。しかし、間部は家宣への忠誠しか考えていませんでした。
天英院は、家宣の死後も影響力を持っていて、8代将軍吉宗を推していました。
江島生島事件
大奥の御年寄の江島が、歌舞伎役者・生島新五郎らに遊興を行ったことで、関係者1400名が処罰された江島生島事件。
大奥では、江島は容姿にコンプレックスがある、いかつい男性。生島は、美麗な女性という設定になっています。これがまた絶妙。切なさが生まれます。2人は男女の仲になることはなく、最後まで罪を認めなかった(史実では生島が拷問を受けて自白してしまう)。
黒幕は、天英院と幕閣で、尾張継友派である月光院方の勢力を削ぐことが目的としています。
7代将軍・徳川家継
徳川家継は、わずか4歳で将軍に就任。
家継も体が弱く、成人するかも危ぶまれていました。そのため、次の将軍争いが過激化。天英院は徳川吉宗を、間部と月光院(左京)は徳川継友を、それぞれ次期将軍に推薦して、対立が深まっていきます。
そしてここで、8代将軍・吉宗が誕生します。ここで物語は1巻に戻ってきました。
吉宗は、これまでの人生を忠臣であった加納久通とともに振り返ります。吉道殺害、頼職殺害、綱教殺害を、すべて加納久通が手を回していたことが判明。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川吉宗(冨永愛)
- 加納久通(貫地谷しほり)
9代将軍・徳川家重
少し言語障害があった家重。容姿端麗な次女の宗武と比較されているものの、実は誠実さを持っていることがわかってきます。
ここで注目すべきは、田沼意次。米を税としてとることが普通だったなかで、商人から租税をとることを提案します。また、ここにきて赤面疱瘡の解決に向けて立ち上がります。長崎で蘭学を学んでいた混血児・青沼が、大奥に招かれます。
そして、平賀源内が登場!あっけらかんとした天才肌で、赤面疱瘡についても独自の見解を示します。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家重(三浦透子)
- 田沼意次(松下奈緒)
- 平賀源内(鈴木杏)
- 青沼(村雨辰剛)
- 黒木(玉置玲央)
- 伊兵衛(岡本圭人)
10代将軍・徳川家治
家治は田沼意次を老中に取り立てます。ただ、田沼に反発する勢力も生まれていきます。そして家治の晩年、田沼は老中の座を解かれてしまうことになります。怪しげな蘭学を広め、風紀を乱したとされたのです。
赤面疱瘡の予防で人痘が成功したものの、副作用もあったため、全員が大奥から追放されてしまいます。青沼は処刑され、平賀源内も志半ばで病気で倒れます。
松平定信が「寛政の改革」を起こして、蘭学を排除していきます。だが治済に対して、大御所の要求に反論したため、松平定信は江戸幕府から追い出されてしまいます。
そして次期将軍に就くかと思われた治済は、息子の家斉に将軍の座を任せます。家斉は人痘接種を受けていたため、久しぶりの男将軍が誕生します。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家治(高田夏帆)
- 田沼意次(松下奈緒)
- 平賀源内(鈴木杏)
- 青沼(村雨辰剛)
- 一橋治済(仲間由紀恵)
- 松平定信(安達祐実)
11代将軍・徳川家斉
ここで大奥のなかでも最悪な人物の闇を見せつけられることになります。治済です。
治済は、家斉に55人もの子作りをさせるのに、生まれた子らを間引きして暗殺していることが明かされていきます。どれだけサイコパスなのか…。
家斉は母からの呪縛から逃れようと、自分の意志で赤面疱瘡の解決をしようとします。しかし治済にバレてしまい、治済は家斉を毒殺しようとしますが、倒れたのは治済でした。家斉の正室・茂姫と側室・お志賀が仕組んでいたことが判明します。結託していることを微塵も感じさせないが、子供たちを殺したのが治済だとわかってから、計画を練っていたのです。
そして、家斉が将軍として先導し、赤面疱瘡が撲滅されていきます。意志を受け継いでいった結果が、ここに結実するわけです。
実際にも、家斉は町人たちの風俗を取り締まらなかったことで、化政文化が花を開くなどに貢献しました。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家斉(中村蒼)
- 一橋治済(仲間由紀恵)
12代将軍・徳川家慶
家慶も男将軍でしたが、リーダーシップはなかったようです。娘を強姦するなどかなりのダメっぷり…。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家慶(高嶋政伸)
13代将軍・徳川家定
家定は父から性的虐待を受けていたことを誰にも明かすことができずにいました。老中の阿部正弘がそれを察知して、家定を守ります。
そして国家による情報公開が行われ、鎖国が終わりを告げます。日米親和条約を結ぶことに。阿部正弘と息が合っていた瀧山が、大奥総取締に就きます。
家定は、島津胤篤と再々婚をします。元々、胤篤は徳川慶喜を擁立するために戦略結婚できたものの、家定のことに肩入れしていきます。家定は胤篤の子を妊娠するがも、臨月を迎えることなく薨去してしまいました。胤篤はその後、天璋院と名乗るようになります。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家定(愛希れいか)
- 阿部正弘(瀧内公美)
- 瀧山(古川雄大)
- 天璋院/胤篤(福士蒼汰)
- 和宮(岸井ゆきの)
14代将軍・徳川家茂
家茂は歴代将軍のなかでもかなり誠実な人物として描かれます。朝廷を尊重しながら、徳川の存続を考えていました。
そして、天皇の娘・和宮が家茂に嫁ぐことに。孝明天皇は攘夷派で、幕府が外国を打ち払うことを期待していました。一方の幕府は、天皇の威光を借りて権威失墜を防ごうとしました。両者の利害が一致したわけです。
和宮がまさかの女性…。本物の和宮は嫁ぐことを嫌がり、身代わりを捧げることになったのです。家定の正室・天璋院は別部屋で暮らすという条件だったが、天璋院は大奥にいた。和宮と天璋院との対立が生まれます。天璋院は島津斉彬の養女。武家の出だったため、水と油。
和宮と家茂との恋がとても素敵で…。新しい家族の形すら提示してくれます。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川家茂(志田彩良)
- 和宮(岸井ゆきの)
- 天璋院/胤篤(福士蒼汰)
15代将軍・徳川慶喜
いよいよ最後の将軍の登場です。慶喜は頭がいいものの、人の気持ちがわからない人物。
和宮と天璋院が奔走します。天璋院は、西郷隆盛に3メートルもの手紙を送りました。斉彬のことも内容に入れながら。西郷は、江戸城の総攻撃中止を決めます。江戸城無血開城が実現したのです。
そして大奥が解体されていきます。
NHKドラマ「大奥」キャスト
- 徳川慶喜(大東駿介)
- 和宮(岸井ゆきの)
- 天璋院/胤篤(福士蒼汰)
- 西郷隆盛(原田泰造)
歴史漫画としてSF漫画として秀逸!
全19巻。各将軍に見せ場があり、さまざまな恋愛の形あり、史実を皮肉った解釈あり、飽きることなく密度の濃い物語を展開してくれました。
江戸時代のことを学べる作りでありながら、ジェンダー問題を浮かび上がらせる構図はお見事。読むべき価値がある作品だと思います。