もう、泣けます。
本書は、SF作家・眉村卓の妻が悪性腫瘍により余命あとわずかとなり、そこから1日1話ずつショートストーリーを書き続ける日々を追った一冊です。
ショートストーリーが何話か掲載されていて、合間にそのときの心情が書き綴られていきます。
「アメトーク!」読書芸人でカズレーザーが紹介していて、15年ぶりに泣いた!と絶賛していました。それが大げさでもなく、特にラスト3話は号泣ものでした。
※『僕と妻の1778話』は集英社文庫版、『妻に捧げた1778話』は新潮新書版のタイトルになります。
ざっくり3行でまとめると…
- 妻が余命わずかで1日1話ショートストーリーを書き続けることを実行していく
- ショートストーリーは全部で1778話あり本書ではその一部を収録
- ラスト3話がグッと胸に迫る
おすすめショートストーリー
ショートストーリーはさまざまなパターンのものがあります。個人的に好きだったのは「ある書評」「秒読み」。
- 「ある書評」898話
本の置き場を増やしていくが世の中は本を読まない人ばかりに。ついには処分するにも大金がかかる世の中になっていた。本への執着と時代を感じさせる内容で、二重構造になっているのがおもしろかったです。
- 「秒読み」1592話
主人公の頭の中で勝手に秒読みがスタート! 何かが起こる予兆というのが、繰り返されて、ユニークな話になっています。
継続することの意味を噛みしめる
ショートストーリーとはいえ、毎日書き続けるのは大変なこと。全部で1778話ですからね。
それでも著者は書き続けることをやめません。
あれは、始めてから三か月位経ったときだろうか。 「しんどかったら、やめてもいいよ」と妻が言った。お百度みたいなもんやからな、と私は答えた。中断したら病状が悪化する気がしたのだ
著者にとって書き続けることは、それほど負担にはならなかったと言います。「書く」という行為自体が夫婦の営みになり、著者自身の心の支えにもなっていたのかも、と感じました。
ラスト3話が胸に迫る
本書のラスト3話はここだけでも読んでほしいと思えるほど、グッと胸に迫る内容になっています。
奥さんの病状が悪化し、ショートストーリーにも妻を失うツラさが投影されていくんですね。
1775話「話を読む」から一部抜粋します。
妻は寝ていた。彼は壁の時計を見た。一時半。午前一時半なのである。彼は体の力を抜いた。眠ると、妻に原稿を読んでいる夢を見ることであろう。何度でも何度でも、見ることだろう。けれども、いつかはそれが夢ではなく現実になるかもしれない。 それを待てばいいのである。彼は椅子に背中をもたせかけた。
そして1777話「けさも書く」。
振り返ると、少し空けてあった窓からの風で、原稿が散り、ばらばらになって床に落ちたのである。彼は拾いにかかった。そのとき。 「それ、エッセイやんか」という、まぎれもない妻の声が聞こえたのだ。元気だった頃の、張りのある声。 彼は、ベッドの妻をみつめた。妻はただ眠っているばかり。
そして奥さんが亡くなった日に、1778話「最終回」
を二階の机で書きます。
その内容は短い数行ですが、感涙ものなので、ぜひ本書で読んでみてください。
夫婦とは何か?
夫婦とはどんな存在なんだろうと、そんなことを考えさせられます。著者はショートストーリーを読む反応などから、妻のことをわかっていないのではないかと感じます。しかし、それでいい、と力強く宣言します。
そして……私は思うのである。人と人がお互いに信じ合い、共に生きてゆくためには、何も相手の心の隅から隅まで知る必要はないのだ。生きる根幹、めざす方向が同じでありさえすれば、それでいいのである。私たちはそうだったのだ。それでいいのではないか。
おすすめ度8 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★
できれば、本書を手にとって最終回までじっくりと読んでほしいなと思いました。なんども言いますが、ラスト3話はぜひ! 折に触れて、読み返したい1冊。