稼ぎのノウハウに特化した本かと思いきや、まっとうな創作本でした。タイトルに引きがありすぎて誤解されそう。
著者は『催眠』や『万能鑑定士Q』といったヒット小説を生み出した松岡圭祐。
なんだか不思議な本なんです。ヒット小説が生み出された背景は一切なし。マニュアルに特化している。小説の書き方もそうだけど、出版社との契約で注意すべき点や映画化されたときのお金の話ときったところまで、具体的な数字を見せて伝えくれる。編集者と恋に落ちたら…といった方法までもあって、ノウハウだけでおもしろく読めてしまいます。
本書では、脳内で物語を作り出す方法を「想造」と呼んでいます。この想造という言葉がやたらと出てくる。とにかく書くな、まだ書くなと繰り返し言及されます。キャラクターのことを脳内でどんどん妄想していく。想造していく。
いったい想造とはどのような方法なのか、解説してみようと思います。
脳内で物語を作り出す方法「想造」
ここから「想造」の方法を伝えていきます。
まずは登場人物の創作です。好きな俳優を7人選んで顔写真をネットからダウンロードする。男女比は4:3。そして、自分が考えた名前をつけていきます。
Wordに画像を貼り付けて、登場人物を書いていく。身長や体重、年齢、出身地、職業など、プロフィールを設定していきます。あとは食べ物の好き嫌い、特技、趣味など。ただし人生の目標やトラウマなどは入れない。物語の可能性を狭める要素はひとまず排除しておく、ということなんですね。1人1枚に収めて、すべてプリントして、部屋の見える壁に貼り付けてみる。そしめメイン7人が張り出されたら、サブの5人を同じように作り出していきます。
次は、舞台設定。風景写真を3箇所、プリントアウトして、登場人物の下に張り付けていきます。
登場人物たちの動きを空想する
ここから登場人物たちの動きを空想します。はじめはAとBが談笑している、そこにCが入ってくる。登場人物は誰と誰が友だちで、新たに知り合うのは誰で、誰が揉め事を起こすのか。
ポイントは物語を作ろうとしないこと。登場人物たちに生命を与えることを意識していきます。それぞれが自発的に動き出すのを待つ。まさにキャラクターが動き出す瞬間ですよね。
ここでもメモや書き込みは加えませんら何かを書けば想造は固定されてしまう。かなり徹底されています。
登場人物が動き出さないのであれば、別の登場人物と入れ替えてみる。これを何日間か続けていきます。登場人物はなるべく12人までに抑える。舞台設定は追加してもオッケーです。だけど、まだメモはとらない(しつこいですね笑)。
そのうち知らないことが出てきたら簡単に調べ物をするのはありだそうです。だけど、ここでは深く調べなくていい。
解決できない波乱が起きたらここが物語の山場
想造が進むと、波乱が起きます。乗り越えたら登場人物の心理がどう変化したか観察してみる。何度か波乱が起こって、やがてどうしても超えられない波乱にぶつかります。1週間考えても解決できないなら、それが本当の「転」、物語の山場になります。
ここではじめてメモをとります。ようやくです。「逆打ちプロット」と著者が呼ぶ方法を使っていきます。物語のタイムラインを進めて結末を思い描いて、一行でまとめておきます。その一行上に結末にいたる少し前の状況を空想して簡潔に綴る、さらに一行上に時間を遡り、転に近づけていく。
だけどらまだあらすじは書きません。「書かない」とここまで言われる創作本はなかなかないかも。高橋源一郎の『一億三千万人のための小説教室』は、まだ書くなというスタンスで近いかもですが。本書はそれよりもしつこいくらい「書くな」と指示されます。
連日、空想しながら最初から最後まで物語を空想していきます。
ようやく執筆に移る
ここであらすじを書く作業に入ります。40字以内で三行にまとめる。コツは5W1Hで書くようにすること。一行目と二行目で内容を変化させると、これらが物語の三幕構成になります。
三幕構成にして、ここから肉付けです。一行目は10行、二行目は20行、三行目は10行。25%、50%、25%のバランスになるようにします。それぞれ5W1Hになっているように。
あらすじの最終段階です。各行のあいだに思い浮かぶあらゆる事柄を書き加えます。40字以内でなくてもいい、5W1Hもいりません。頭の中にあるすべてを羅列していくのです。
場所、情景、聞こえる音、人物の顔や服装、何を考えているか、何が起きたのか、そこに何があるのか、どう思ったのか、どう感じたのか。時系列順でなくてもいい。
ついに執筆です。ここでは手本として用意した小説2、3冊を参考にするのがおすすめのようです。
あらすじの再検討は6点を意識する
あらすじの再検討としては、下記の6点を見ていくといいでしょう。
- 起伏がありすぎる
- 起伏がなさすぎる
- 展開が速すぎる
- 展開が遅くすぎる
- 終盤の山場が唐突にすぎる
- 終盤の山場がなかなか盛り上がらない
創作本としておすすめ
今回は小説の書き方に特化してピックアップしましたが、ほかにも小説家の裏話に踏み込んだ内容が盛りだくさん。裏側を知ることができるので、先が気になってどんどん読めます。何より創作できそうな気持ちになれるのがいい。ありきたりな話ではなく、キャラクターがイキイキとした物語が生まれる。創作本としてかなりおすすめです!
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