文章本がけっこう好きなので、何冊か読んでいますが、決定版が出てしまったかもしれません。
『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』です。
著者は、『嫌われる勇気』のライターである古賀史健さん。ストイックなライター論でありながら、読後、書いてみようと背中を押してくれる内容になっています。
- ライターとは?
- 編集者はなにを「編集」するのか?
- ライターは何を編集するのか?
- 編集者とライターのトライアングルを重ね合わせる
- 取材とは?
- 取材で大事なこと
- 最高の取材とは?
- 取材は3つに分かれる
- 執筆の論理とは?
- 推敲の本質とは?
- 書き続けるために
ちなみに文章術本についてはこちらでもまとめています。
ライターとは?
まずはライターの定義から。
ライターは書く人なのでしょうか?書くことははその手段でしかない。本書ではライターを「書く人である以前に、つくる人」と定義します。書く人からつくる人へ。
ではライターはなにをつくっているのでしょうか?
ライターは「コンテンツ」をつくっています。コンテンツとは、「エンターテインを目的につくられたもの」。コンテンツ化のポイントは、ストーリーやキャラクターの有無ではなくて、その根底に「エンターテインの精神が流れているか」、それだけ。
そもそもライターは、からっぽの存在。だからこそライターは、取材をしてしつこいほど問いを立てて埋めていきます。ライターは、わたしはこう理解したと「返事」を書く人のことを言うのです。
編集者はなにを「編集」するのか?
コンテンツをつくるには、「編集作業」が発生します。編集者とライター、どちらもが編集作業を行っている。この両者がなにを編集しているのでしょうか?
編集者の領域から。編集者は、ライターが書いた原稿をチェックして、校正・校閲まで行うことがあります。しかし、「原稿の編集をするのは100%ライターの仕事」と古賀さんは断言します。けっこう衝撃的…。
となると、編集者はなにを「編集」しているのでしょう?
編集者は、原稿の外側にあるもの、パッケージの部分を編集するとしています。具体的には、「人(だれが)、テーマ(なにを)、スタイル(どう語るか)」の組み合わせを設計するのが編集者の仕事。究極的に「人」を編集している。
例として、養老孟司さんの本『バカの壁』が挙げられています。『バカの壁』は2003年に刊行されて、発行部数400万部を超える大ベストセラーになった本。
解剖学者である養老孟司さんは、当時すでに知の巨人として認知されていました。そこで知を押し出すのではなく、だれもが陥る「バカの壁」をテーマにすることで、読者の裾野をググッと広げたのです。そして、養老孟司さんに語ってもらい、ライターがまとめるという手法をとりました。
すなわち、「人=知の巨人、テーマ=バカの壁、スタイル=語り口調」といったパッケージの設計を、編集者が担ったというわけです。
今考えても、テーマ設定が大胆ですよね。バカの壁、に決めたのがすごい。
ライターは何を編集するのか?
では、ライターはなにを「編集」しているのでしょうか?
「情報の希少性」「課題の鏡面性」「構造の頑強性」、この3つをライターは編集していると言います。
「情報の希少性」とは、ここでしか読めないなにかが盛り込まれているどうか。希少なのかを知るためには、すでに世の中に出ている情報を把握しておかないといけません。
「課題の鏡面性」とは、読者が自分ごととして読めるかどうか。他人ごとになっていては、読者は興味深く読んでくれるわけがありません。
「構造の頑強性」とは、原稿の構造を設計できているかどうか。しっかりとした構造が設計できているからこそ、おもしろい比喩表現や、リズムのある文章が活きてくるわけです。
編集者とライターのトライアングルを重ね合わせる
編集者とライターが担う、それぞれのトライアングルによって、コンテンツの力が決まります。
もちろん、2つのトライアングルは、編集者が担う領域・ライターが担う領域は、もっと溶け合っていくのだと思います。
取材とは?
ライターは書いていない時間のすべてを「読むこと=取材」に費やさなければならない。観察し考えることに費やさなければならない。書くためには、質の取材が必要というわけです。
すぐれた書き手は、例外なくすぐれた取材者。清少納言の『枕草子』。吉田兼好の『徒然草』。観察者(取材者)としての目があると言います。
ライターが鍛えるべきは「書く力」ではない。「読む力」を鍛えてこそ、すぐれたライターとなりえるわけです。
いい文章の条件とは、豊かな言葉がするするとあふれ、書きあぐねた様子がまるでうかがえない文章。最初からその形で存在していたとしか思えない文章。
いい文章を書くためには、取材が鍵を握ります。
いい取材者である心構えを3つにまとめています。
- 自分を変える勇気を持とう
- 自分を守らず、対象に染まり、何度でも自分を更新していく勇気を持とう
- 他人ごととして書かれた原稿など、返事になりえない
取材で大事なこと
取材の7割は「聴く力」で決まる、残りの3割が「訊く力」。
- 聴く…相手の声にじっと耳を傾ける
- 訊く…相手に問いかける
場の空気をつくるのはいつも聞き手なんですね。取材であれ、打ち合わせであれ、友達の会話であれ。仕事でもプライベートでも、自分がなにをしゃべるかばかりを考えていると、かなりぞんざいなキャッチボールになってしまうわけです。誠実な「聴き手=キャッチャー」に飢えている。
聴くための土台としては、入念な下調べ。取材用の資料として読むのではない。その人を好きになるため。これはインタビューの基本ですね。
あと、ライターとインタビュアーを切り離すというのも大事な視点だと思いました。取材という一期一会の機会をお互いにとって実りあるものとすること。
最高の取材とは?
最高取材とは、「おかげで初めて言葉にすることができた、気がついたらこんなところまできてしまった」と、お互いがそう思える取材のこと。
取れ高ばかり考えていると、相手の話をまともに聴こうとせず、すべての発言を『使えるか、使えないか」の目で評価してしまう。あるあるですね。取材対象やの本音とは、策を弄して引き出すものではなく、リラックスした会話のなかでこぼれ落ち、それを拾うもの。
で、驚きを取材のなかに入れることを重視していて、ひとつでも驚きを持って取材できるように自分をコントロールしているそうです。仮説を立てていれば、驚きが生まれる。能動的な質問をすることを意識する。仮説を持たずに投げかける質問は「投げっぱなしの質問」。
取材は3つに分かれる
取材は、3つに分けて考えていきます。
- 前取材…取材相手に会ったり、作品や商品などに触れたりする前に行う
- 本取材…インタビューや講演を聴講したりイベント参加。本を読む、商品を使ってみる
- 後取材…追加で調べる。わかったと思えるまで調べて考える。わからないことを洗い出す
ライターは自分のあたまでわかったことしか書いてはいけないというのは至言でした。書き手がわかっていないと、脇の甘い文章になってしまう。自分の言葉でつかまえて書き記さないといけないんですね。
わかるまでのプロセスを体験すれば、なぜわかったのか、なぜつまずいたのか、その道を再現することで、わかりやすい文章を書けるようになるというわけです。
取材とは、対象を「知る」ことから出発して、「わかる」にたどり着くまでの知的冒険。
執筆の論理とは?
いよいよ執筆編。
読者に伝えるには、論理的な文章を書くこととしています。自らの主観に基づく論が、なんらかの客観によって裏打ちされたとき、その言説は論理的な文章となります。
- 主張 言いたいこと、伝えたいこと、知ってほしいこと
- 理由 そう訴える理由
- 事実 主張と理由を下支えするもの。実例や類例でもいい
説得ではなく、納得。説得はされるもの、納得とはするもの。能動的に読み手に納得してもらうことを目指すというわけです。
そして起承転結ではなく、「起転承結」で展開することがおすすめされます。
- 起 世間で常識とされていること
- 転 それをくつがえす主張、仮説
- 承 主張する理由と、理由を裏付ける事実や類例
- 結 論証を経たうえでの結論
推敲の本質とは?
推敲の本質を自分への取材。では自分の原稿をどう読むのかというと、時間的な距離、物理的な距離、精神的な距離を取ることが必要だとしています。
文章には盛り、漏れが出るのもうなずくところでした。
- 盛り 文章が盛りを要求してくる、だが冷静にならないといけない
- 漏れ 前提知識が必要なはずの議論を一足とびになることがある
書き続けるために
だいぶはしゃったところもありますが、ラストは書くことに対しての心情を伝えてくれます。
「ほんとうは、もっとおもしろかったんじゃないか。やる気があるからおもしろい原稿が書けるのではなく、おもしろい原稿にならないから、やる気を失っているのだ。もしも原稿がおもしろければ、食事をとることさえ忘れるくらい、没頭するだろう」
書くメソッドとともに、書く勇気を与えてくれる本でした。おすすめです!
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