京極夏彦の百鬼夜行シリーズ、17年ぶりの長編『鵼の碑(ねえのいしぶみ)』が刊行されました!
『鵼の碑』は、妖怪を主題とした百鬼夜行シリーズ9作目。今回は、『鵼の碑』あらすじ・ネタバレ紹介していきます。
『鵼の碑』あらすじ
舞台は昭和29年2月の日光。劇作家・久住加壽夫(くずみ かずお)は、滞在しているホテルのメイドから忌まわしい過去を告白されます。探偵助手の益田龍一(ますだ りゅういち)は、失踪者の捜索を相談されます。刑事の木場修太郎(きば しゅうたろう)は、消えた死体の謎を追っていきます。
『鵼の碑』の魅力は?
「蛇」「虎」「貍」「猨」「鵺」のパートが少しずつ展開されていきます。それぞれがじわりと関連していき、1つの大きな謎に収れんされていくのは、たまらない快感があります!
レギュラーメンバーはもちろんのこと、これまでの百鬼夜行シリーズのキャラクターがどんどん出てきて、豪華さあり。もちろん京極堂こと中禅寺秋彦の憑き物落としもたまらない。17年、待たせただけのことはある作品になっています。
ちなみに、鵼(鵺)は、さまざまな動物をつぎあわせたような姿だとされる妖怪。各章だけではまったく謎が解けないものの、すべてが掛け合わさったときに全体像が見えてくる。しかしそれもまたおぼろげなものという構成に唸らされます。
『鵼の碑』登場人物
膨大な登場人物がいるのですが、主要な人物にフォーカスして紹介していきます。
各章の語り手
- 久住加壽夫(くずみ かずお)…蛇の章の語り手。劇団月晃の脚本家。パトロンから能楽『鵼』をテーマにした新作を執筆中で、日光榎木津ホテルで滞在している。
- 御厨冨美(みくりや ふみ)…虎の章の語り手。寒川薬局の薬剤師。戦後、寒川秀巳に助けられた。寒川秀巳が失踪して、黒川玉枝の紹介で薔薇十字探偵社へ相談にくる。戦争未亡人。継母に追い出されて結婚して子供ができたが、旦那は兵隊に。赤ちゃんも空襲でやられた。
- 木場修太郎(きば しゅうたろう)…貍の章の語り手。警視庁麻布署刑事課捜査一係の刑事。元は警視庁本庁に配属。
- 築山公宣(つきやま こうせん)…猨の章の語り手。自称・学僧で宝物殿で学芸員まがいのことをしている。中禅寺とは戦後に知り合った。
- 緑川佳乃(みどりかわ かの)…鵺の章の語り手。地方大学に勤務する医師。中禅寺、関口、榎木津とは学生時代の知人。
その他
- 関口巽(せきぐち たつみ)…小説家。久住に声をかけられ、ホテルのメイド登和子から聞いた殺人の相談を受ける。
- 中禅寺秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)…古書店「京極堂」の店主。憑き物落としを得意とする。築山から依頼されて輪王寺で古文書古記録の調査を行う。
- 益田龍一(ますだ りゅういち)…薔薇十字探偵社の探偵助手。御厨から秀巳の捜索相談を受ける。
- 鳥口守彦(とりぐち もりひこ)…三流カストリ雑誌の記者。益田から20年前に死亡した秀巳と市雄の親の調査を進める。
- 榎木津礼次郎(えのきづ れいじろう)…薔薇十字探偵社の探偵。記憶が視える体質。
- 青木文蔵(あおき ぶんぞう)…警視庁本庁刑事部刑事課の刑事。木場の後輩。
- 桜田登和子(さくらだ とわこ)…日光榎木津ホテルのメイド。
- 奈美木セツ(なみき セツ)…日光榎木津ホテルのメイド。
- 笹村倫子(ささむら みちこ)…日光榎木津ホテルの新人メイド。龍脳のにおい袋の持ち主。
- 寒川秀巳(さむかわ ひでみ)…寒川薬局の店主。植物学者の父が不審死。発見者は遺体を運ぶと行方知れずに。昨年の秋に日光にいってた。
- 寒川英輔(さむかわ えいすけ)…寒川秀巳の父。植物学者。
- 笹村市雄(ささむら いちお)…下谷在住の仏師。笹村の父は操觚者、記者。
- 桐山勘作(きりやま かんさく)…日光の山で暮らすマタギ。
- 郷嶋郡治(さとじま ぐんじ)…公安調査庁の調査官。元公安刑事。登和子を尾行していた。
『鵼の碑』ネタバレ解説
複数の話がそれぞれ展開されていきます。
蛇の章
久住と関口がメイドの父親殺しの謎を追う。
久住は、脚本執筆のため、日光榎木津ホテルへ。そこに同じく滞在していた小説家の関口に、久住は
ホテルのメイド桜田登和子による父親殺しの話をする。
日光榎木津ホテルは、関口巽の友人の兄がオーナー。別の友人が調査の依頼を受けてここにいる。オーナーの弟もきているという。シリーズのメインキャラである探偵の榎木津礼二郎、憑き物落としの中禅寺秋彦がいることがわかる。
桜田登和子が6歳のときに、父親を殺したという謎がメイン。ホテルのメイドで、関口と顔見知りの緑川佳乃も登場し、桜田家の謎を追っていくことになる。
虎の章
御厨は寒川秀巳の失踪について、探偵社の益田に相談する。寒川と笹村は日光へ行っていた。父は虎の尾を踏んだのかもしれないと、寒川秀巳は話していた。
寒川の父親の事故死を担当していた刑事によると、死体が消えて、その翌日死体が帰ってきたという。特高警察の存在があった…。
貍の章
木場が、20年前の芝東照宮の裏手で起こった遺体紛失事件の話を聞く。
さらに同時期の昭和9年6月25日、八王子の多西村での放火殺人事件との関連性が浮かび上がる。放火殺人事件では、笹村伴輔と澄代の2人が死亡。
木場は放火殺人の遺族が引き取られた日光へ。そこで桜田登和子と出会い、彼女の父親殺しも調べることになる。
猨の章
輪王寺の学僧・築山公宣は、古文書の整理を中禅寺秋彦に依頼する。
日光東照宮にまつわる、天海蔵の収蔵品、二荒山神社、男体山、女峰山、太郎山についての考察がなされる。
そして築山は、過去に隠蔽された原爆開発計画の真相に迫っていく。
鵺の章
緑川は、大叔父の緑川猪史郎博士の死亡を知って、日光を訪問する。大叔父が運営していた旧尾巳村の診療所で、10年以上ぶりに関口と再会する。
果たして結末は?
大きな謎になるのは、「燃える碑」と「消えた3人の死体」。
「燃える碑」は、夜光塗料を塗ったことで起こった現象だということが判明する。「消えた3人の死体」は、特高と内務省で死体の取り合いがあったことがわかる。
そして、登場人物たちが語る不安はどんどん色濃くなっていくのですが…。原子力や放射線といった言葉がちらつく。
結論としては「なにもなかった」ということになります。原爆開発をするのではなく、原爆反対のために、放射線の危険性を示す実験場が日光にあった。
そう、最初から鵼など居ないのです。百鬼夜行シリーズは読んだあとにその妖怪を感じさせるシリーズ。そう捉えると、お見事というほかありません。
百鬼夜行シリーズの次回作は?
このボリュームで謎が謎を呼ぶ展開を読めるのは、やはり百鬼夜行シリーズならでは!読んでいる最中、久しぶりに百鬼夜行シリーズを読んでいるという快感がありました。
次回作は『幽谷響の家(やまびこのいえ)』。帯で明かされていて、発売時期は未定ですが、すでに構想はあるのでしょう。あまり長い期間にならないことを祈りながら、待ちましょう!
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