編集力が求められている、そんなことが言われる時代になっています。
NewsPicksのCEOである佐々木紀彦さんによる編集論。佐々木さんが、東洋経済オンライン編集長からNewsPicksへと移籍したときは衝撃でした。その当時から勝ち筋が見えていたことが本書からわかります。
ビジネスマンにも必須要素だとする「編集思考」とはなにか?
そもそも編集とは?
編集とは出版社での用語でしたが、それが幅広く使われるようになっています。佐々木さんの定義は以下。
編集とは、素材の選び方、つなげ方、届け方を変えることによって価値を高める手法だと考えています。
編集者とは、偉大なる素人。空気を読み切った上で、空気を打ち破る力が求められる。
新しい価値を生み出せることが編集のすごさというわけです。
編集思考4つのステップ
編集思考は、セレクト、コネクト、プロモート、エンゲージの4つのステップがあるとしています。それぞれ確認していきましょう。
セレクト(選ぶ)
あまたの素材から精選するのがセレクト。素材がないと始まりません。良いところだけを抽出して対象となる人物や物に惚れ抜く。他の人にはまだ見えていない価値を発掘していきます。
セレクトが間違いないかは、直感をダブルチェックしたり、両極に振ったりすることで見えてくるといいます。
コネクト(つなぐ)
セレクトにより引き出しを手に入れたあとに、つなげるセンスが試されます。
例えば、古いものと新しいものをつなげる、縦への深掘りと横展開でつなげる、文化的摩擦が大きいもの同士をつなげるということが考えられます。
プロモート(届ける)
生まれたものを外に向けてどう届けるのか?このあたりはマーケティングとも近い要素で、編集は作っただけで終わりではないのです。
プロモートの視点として3つ挙げています。
- Timeline(時間軸)
- Thought(思想)
- Truth(真実)
エンゲージ(深める)
ここではサブスクリプションを例に挙げています。継続性も含めてエンゲージしている。
サブスクリプションは、17世期の英国の辞書が定期購読モデルを採用したのがはじまり。パトロンが出して刊行するのが一般的だったのが出版前に読者からお金をもらうモデルを編み出したそうです。
ジェイン・オースティン、エドマンド・バーク、ディヴィッド・ヒュームといった知識人もサブスクリプションに追随したというのは興味深いところ。
NewsPicks、ネットフリックス、We Workの編集思考
後半は具体例が紹介されていきます。
NewsPicksは、編集思考で生まれたサービスで、プラットフォームとパブリッシャーをつなげる役割を果たしているといいます。
パブリッシャーは、YahooやSmartNewsなどのプラットフォームにコンテンツを提供するだけで、ブランディングにつながらない状況になっています。かといって、プラットフォームだけだと、ファン化につながりにくい。
そのために、NewsPicksは流通と制作を一手に担う「プラティシャー」という立ち位置を目指しています。これはかなり先見の明があるなぁとあらためて感じます。
さらに先鋭編集者たちによるプロフェッショナルコンテンツに加えて、コメント機能でユーザーコンテンツを共存させている。NewsPicksがここまで伸長しているのが納得です。
ほかはNetflixや、We Workの強みも紹介されています。
編集思考を磨く6つの行動
では、編集思考をどう磨けばいいのか?佐々木さんは6つの行動を提示しています。
- 古典を読み込む
- 歴史を血肉とする
- 二分法を超克する
- アウェーに遠征する
- 聞く力を磨く
- 毒と冷淡さを持つ
この中だとやはり古典の大切さを感じました。アリストテレスの『詩学』が紹介されています。すべての悲劇には以下の6つの構成要素があり、最も重要なのがストーリーだとしています。
- ストーリー:出来事の組み立て
- 性格:登場人物の性格
- 語法:韻律を伴ったセリフの組み立て
- 思考:登場人物の言論
- 視覚効果:衣装や舞台装置などの装飾
- 歌曲:歌や音楽の組み立て
そしてカタルシスのある物語は以下の要素があるとしています。
– 受難:破滅的であったり、苦痛に満ちていたりする行為。死や病気や事故など
– 逆転:予想に反する方法で、正反対の方向へ行為の成り行きが変転すること
– 再認:認知していない状態から、認知へと変転すること。愛情や憎悪への変転
ほかに気になった本は以下。
『福沢諭吉のサイアンス』
『文明論之概略』
『小林一三 日本が生んだ偉大なる経営イノベーター』
福沢諭吉は大学(慶応)、コミュニティ(交詢社)、メディア(時事新報)とううトライアングルを通じて、日本の新しい時代精神を創り出したといいます。
あと、松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、井深大など経営の神様と言われている人たちを知ることも必要なのだと思いました。
イノベーションを起こす思考法
編集はもはや出版用語ではなく、イノベーションを起こすための思考法、というのが本書の主張となります。金融テクノロジーのあとにくるものは「文化」という指摘もおもしろかった。人文科学、文化、アートが復権してくるのではないかという予測です。これからの日本を考える上でもさまざまな気づきがある内容になっています。
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