日本代表サッカーは、ワールドカップ直前に大鉈をふるいました。代表監督ハリルホジッチの解任です。
本書は、ハリルホジッチの分析本として制作されていたものの、解任を受けて発売を延期。新たに加筆して緊急出版されました。
かなり緻密な分析本で、ハリルホジッチが目指したものが把握できる内容でした。ワールドカップ前に読んでおきたい一冊でした!
- ハリルがドイツ代表を窮地に追い込んだ試合
- オーストラリア戦の勝利は必然だった
- ハリルが日本代表に残そうとしたもの
- ハリルを招聘したサッカー協会・元技術委員長の貴重なインタビュー
- 日本代表を「点」ではなく「線」で見ていく
- おすすめ度☆☆☆☆☆☆☆★★★
ハリルがドイツ代表を窮地に追い込んだ試合
さて、ハリルホジッチが指揮をとった象徴的な試合が2つあり、本書はその2試合の分析から始まります。
まずは、アルジェリア代表VSドイツ代表戦。
ハリルホジッチがアルジェリアを率いたブラジルワールドカップの一戦です。優勝したドイツを土俵際まで追い込んだのが、アルジェリアでした。
ハリルホジッチは、ドイツ代表から勝利をもぎ取るために大胆な方法をとります。
ドイツ代表の戦術、やり方、その骨格を直接叩くことこそが勝利への最短・最善の方法だからです。
そうドイツの長所をつぶしてしまおうというのです。
本書では、ドイツ代表が5レーン理論で戦術を組み立てていると分析。5レーン理論というのは、ピッチを縦5つに分けて戦術を考える方法です。ドイツが使おうとしていたハーフスペースを、ハリルはつぶそうとしていたわけです。
オーストラリア戦の勝利は必然だった
そして、オーストラリア代表VS日本代表。日本がワールドカップ 行きを決めた一戦です。
強豪オーストラリアに何もさせずに、完膚なきまでに叩きのめしました。
ハリルは、オーストラリア代表がセンターバックからのビルドアップで攻撃が始まると分析。ウィングの乾と浅野を、オーストラリアのセンターバックの前に立たせるようにしました。そうすることでセンターバックからのパスコースを遮断し、ボール奪取を狙おうというわけです。
日本代表の井手口による2点目は、まさにその形でした。
すなわち、ハリルホジッチは「エリアの魔術師」であったことが、本書で明らかになります。
ハリルホジッチの特徴を、以下のように分析しています。
- フィールド上のどのエリアを、どのような方法で占有するかを考えている
- 勝敗を決定づけるプレーのため、占有したエリアをどう活用するかを考えている
- 限られたエリアだけではなく、多彩なエリアを活用しようと考えてる
ハリルっどんな監督か、デュエルや体脂肪といった言葉があるだけで、ここまで丁寧に分析した内容はなかったのではないでしょうか。
やっぱり名将??
ハリルが日本代表に残そうとしたもの
ハリルは日本代表の強化プランを練っていました。
2016年夏に作られたハリルホジッチ資料では、パワポ10枚ほどの小冊子。映像も攻撃と守備10分くらいずつあったそうです。
そこでは、日本のフットボールのアイデンティティをつくることが目標とされていました。
守備の原則、デュエル、プレッシャーどこでプレスかけるか、ボール奪うか。
いまは非公開らしいですけど、これってサッカー協会として世に出すべきでは?
ハリルはこういうサッカーを目指した。どこを踏襲してどこを軌道修正するのか。ワールドカップ後でもいいので、公表はマストにするべきでしょう。
また、個別にアレンジされたトレーニングメニューを一人ひとりに渡していたそうです。国内選手の体脂肪率が改善しないことに腹を立てたのも、世界基準を意識しろというメッセージでした。
本書だけ読むと、選手とのコミュケーション不足ってあったの?と思ってしまいますが。
ハリルを招聘したサッカー協会・元技術委員長の貴重なインタビュー
本書の巻末には、なんと日本サッカー協会元技術委員長・霜田さんのインタビューが掲載されています。ハリルホジッチを呼んできた人ですね。
就任交渉時、ハリルは資料を用意してきたそうで、それはブラジルワールドカップ 、アジアカップ、日本代表の計7試合を分析したもの。
霜田さんによると、日本代表監督は人気職になっているみたいです。プレッシャー少ない、アジアの中で優位性がある、そこそこ給料もいい。そう言われると確かに!
霜田さんは、ワールドカップで結果を出すにはメンタリティを重視していて、本戦で気後れしないし名前で負けないようなメンタリティを持てるかどうかは、ピッチに立つ前の段階ですでに勝負がついていると言います。
そりゃそうだと思いつつ、これって97年ワールドカップから言われてたことでは?と愕然ともしますね。あれだけ海外組いるのに。
日本代表を「点」ではなく「線」で見ていく
で、日本代表の継続性に言及してるのも本書の魅力です。
これまでの日本代表を「点」で見るのではなく、「線」で見てるんですね。
ザッケローニ後は、ワールドカップで実績があることが監督の条件。ザッケローニはプランAはあったがプランBがなかったようで、ブラジルワールドカップ では惨敗しました。
だからこそのハリルホジッチだったと。
おすすめ度☆☆☆☆☆☆☆★★★
ハリルホジッチの戦術について重厚に分析していて、モヤモヤが少し晴れました。とはいえ、日本サッカー協会がなぜワールドカップ直前で、ハリルを解任したのか、そのモヤモヤは増すのですが…
この時期だからこそ読むべき一冊!
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