「このミステリーがすごい!」で1位にランクインするなど話題になっている『屍人荘の殺人』。
久しぶりに本格ミステリーを手に取ってみましたが、かなり欠陥のある作品だなと…
『屍人荘に殺人』は外界と連絡がとれなくなる、いわゆる「クローズド・サークル」もの。
で、このクローズドになる手法がトンデモない!
帯に「ネタばれされる前に読んで」とあるように、途中からのある展開に度肝を抜かれます。よくぞまぁ考えたもんだなと。
ただこの設定を活かしきれてないと感じました。
『屍人荘の殺人』を題材にして、本格ミステリ作品が成り立つ難しさについて、考察していきます。
あらすじを3行でまとめると…
- 神紅大学ミステリ愛好会の会長・明智恭介と葉村譲が、映画研究部の夏合宿に参加する
- 映画研究部には脅迫状めいたものが届いていた
- 合宿初日に驚きの出来事が起こり、メンバーは「紫湛荘(しじんそう)」にこもることになる
本格ミステリの要素がてんこ盛り
冒頭から本格ミステリの要素がてんこ盛り!
探偵、助手、夏合宿、脅迫状、密室殺人…。いやぁベタすぎるでしょ?というくらいのフルコースです。
そして、ある衝撃的な展開が訪れます。これはすごく面白いアイデアだと思いました。
『屍人荘の殺人』は第27回鮎川哲也賞を受賞していますが、選考委員の北村薫は、
野球の試合を観に行ったら、いきなり闘牛になるようなものです。それで驚かない人がいますか?
と評しています。そんくらいアッと驚く。ネタばれは避けますが、この展開はいいのに、活かしきれてないなぁというのが、率直な感想でした。もったいない…。
本格ミステリに必要な要素とは?
『屍人荘の殺人』は、本格ミステリとして大事な要素が欠けていると思っています。
そもそも本格ミステリに必要な要素とは何か?
めちゃくちゃざっくりしてますが、
- ミステリ要素:謎がある
- 自然な展開:謎がありながら物語としてナチュラル
この2つの要素がいいバランスで入っていることかなと。
図にするとこんな感じのバランス。
「謎がある」というのは言わずもがなですが、物語内で謎が起こる、もしくは謎が起こっていないといけません。謎を解いていく、というのがどの本格ミステリも基本路線。まぁ、ミステリだしね。
で、個人的なところでは、もう1つの要素として、「物語としてのナチュラル」かどうか。「謎」を存在させながら、読者が物語世界に入れるかどうかを重視したいんです
「謎がある」ということは、通常起こり得ないことが物語内で発生しているわけです。となると、どうしても日常からは乖離した状況で、読者は白けてしまう可能性がある。こんなとありえーね!と思われたら負けです。そこで物語上の「ナチュラルさ」が求められてくる。
だって、謎が奇抜なだけでいいなら、それは小説じゃなくていいじゃないですか。ただのクイズでもいい。
「ナチュラルさ」というのは、いろいろあります。謎が起こるまでの状況設定だったり、謎が起こった理由だったり、登場人物の言動や心情も入ります。
「ナチュラルさ」があると、
- 読者が物語を同時体験できる
- 読者が物語を不自然だと思わない
このように読者が物語世界に浸ることができるか、読者がどれだけ物語世界に入っていけるかどうか、謎が奇抜であればあるほど大事。
つまりは、物語の説得力、と言っていいと思います。
『屍人荘の殺人』の欠陥はどこにあるのか?
だいぶ長くなりましたが、『屍人荘の殺人』はどうだったのか?
先ほどの「1.謎がある」の要素は、かなり高得点かなと。奇抜なアイデアでありながら、これ本格ミステリとして成立するじゃん!思えました。
ただし、「2.謎がありながら物語としてナチュラル」が欠けている。圧倒的に欠けている…。
【謎高・ナチュラル低型】
本格ミステリとして優秀なのは、1と2が高いレベルで均衡が取れている作品かなと。
『屍人荘の殺人』は「ナチュラルさ」がまったくなくて違和感だらけ。
- プロローグに出てくる班目機関という謎の組織が謎すぎる。
- 夏合宿に参加者を募る理由が強引すぎる。
- 登場人物が多すぎるからから途中で語呂合わせが出てくる(第27回鮎川哲也賞で選考委員の加納朋子さんは褒めてたけど唐突だった)
- クローズドサークル後に緊張感がない。何をのんきに映画とか見てるんだッ!?
- 登場人物に共感が得られないから、だれが死んでも悲しくない
ただしそうなるとナチュラルさがあるけど、謎要素に奇抜さがない場合はどうなるのか?
【謎低・ナチュラル高型】
物語としてはいいのでしょうけど、本格ミステリとしてはちょっとパンチが弱くなる。謎が奇抜であったりオリジナリティがあったりすることは評価したい。そういうジャンルではあると思っています。
おすすめ度3☆☆☆★★★★★★★
まぁとにかくですね。ぼくが思うのはこの設定もったいない!ってこと。
おいしい設定で、これうまく料理すれば、超ど級の傑作になれたと思います。トンデモ展開が起こったあと、もはやだれもが予測不能な状態になったわけです。そして登場人物の関係性をうまく使って、泣ける展開にも持っていけましたよ。
おそらく班目機関が今後も事件を起こすことがあるでしょうし、探偵役が同じでシリーズ展開もできるので、次作は期待したいところ。
あと、明智のキャラが大好き…
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