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【京極夏彦】「百鬼夜行シリーズ」読む順番は?おすすめ作品を全作レビュー

京極夏彦の百鬼夜行シリーズ!

怪異や妖がいるおどろおどろしい世界観に多くのファンがいるシリーズです。『姑獲鳥の夏』のデビューは衝撃的でした。400ページを超える分厚い分量で、弁当箱といわれるほど。その長さを感じさせないのが、びっくりでした。さまざまな事件と登場人物が複雑に絡み合って、さながら曼荼羅のような展開を見せながら、最後に謎が紐解かれる。これがまた不思議な味わいがあったんですね。

そしてついに、百鬼夜行シリーズの最新作『鵼の碑』が刊行されます!これまでのシリーズを全作品、振り返っていきます。

最新作『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』

実に17年ぶりの新作!『鵼の碑』は2023年9月に出版されることになります。

鵼とは、猿の顔、タヌキの胴体、虎の手足、蛇の尾が一体化した妖怪。バラバラのエピソードがだんだんと1つに収れんされていく物語になっているそうで、ひさしぶりに百鬼夜行シリーズの世界が堪能できそうです!

なぜ17年も時間がかかったのか?

百鬼夜行シリーズは1994年から2006年まで定期的に刊行されていたのですが、17年もの間が空きました。それは作者の京極夏彦が、映画やイベント出演で体を壊して、雑誌連載で掲載していくことが頓挫してしまった。水木しげる漫画大全集の監修や、日本推理作家協会代表理事を4年やってきたことで、シリーズに着手できなかったそうです。

百鬼夜行シリーズの読む順番は?

百鬼夜行シリーズはこれまで9作が刊行されています!

  • 第1作 姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)1994年
  • 第2作 魍魎の匣(もうりょうのはこ)1995年
  • 第3作 狂骨の夢(きょうこつのゆめ)1995年
  • 第4作 鉄鼠の檻(てっそのおり)1996年
  • 第5作 絡新婦の理(じょろうぐものことわり)1996年
  • 第6作 塗仏の宴 宴の支度(ぬりぼとけのうたげ うたげのしたく)1998年
  • 第7作 塗仏の宴 宴の始末(ぬりぼとけのうたげ うたげのしまつ)1998年
  • 第8作 陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)2003年
  • 第9作 邪魅の雫(じゃみのしずく)2006年
  • 最新第10作 鵼の碑(ぬえのいしぶみ)2023年

基本的には、事件の時系列も刊行順なので、第1作から読んでほしいところです。

百鬼夜行シリーズの読むべきおすすめ作品は?

ただしとにかく分量が多いので、まずはこの3冊をおすすめしたいです!

  • 姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)→ 驚愕のデビュー作!
  • 魍魎の匣(もうりょうのはこ)→ シリーズ最高傑作といわれる作品!
  • 絡新婦の理(じょろうぐものことわり)→ 完成度の高い作品!

百鬼夜行シリーズの登場人物

百鬼夜行シリーズには、かなり特長のある人物がそろっています。おどろおどろしい事件と、このキャラクター性が絡まるのが、魅力なんですね。シリーズに出てくる主要人物を紹介していきます。

中禅寺秋彦

古書店「京極堂」の店主。家業は神主、そして憑き物落としを専門にする拝み屋でもある。難解な事件の相談が持ち込まれると、膨大な知識と明晰な分析力で、謎を解きほぐす。「この世には不思議なことなど、なにもないのだよ」。

関口巽

売れない幻想小説家。稼ぎ口として、『月間実録犯罪』に猟奇趣味の記事を寄稿している。なぜか事件によく巻き込まれる。劣等感から、狂気にとらわれる妄想にとりつかれることもある。

榎木津礼二郎

薔薇十字探偵社の探偵。傍若無人で破天荒で言動は支離滅裂。他人の記憶を視る能力がある。捜査も推理もしない、神なる探偵!

木場修太郎

警視庁捜査一課の刑事。榎木津の幼なじみ。正義感ゆえに暴走することもしばしば。

中禅寺敦子

中禅寺秋彦の妹。可憐でりんとした美人。出版社・奇譚社で編集記者をしている。

百鬼夜行シリーズ

百鬼夜行シリーズの各作品のあらすじ・魅力を紹介していきます。

『姑獲鳥の夏』

京極夏彦のデビュー作!

昭和27年夏、妊娠20ヵ月になるのに出産しない妊婦がいるという怪異譚が東京を賑わせていた。しかも、その夫は1年半前に密室から消失しているという…。作家の関口巽は、この奇譚を原稿にすべく、京極堂こと中禅寺秋彦のもとへ訪れます。

一方、薔薇十字探偵社の榎木津礼二郎のもとには、妊娠20ヵ月の妊婦の姉・久遠寺涼子が相談にきていました。

関口、中禅寺、榎木津が、久遠寺産科医院を取り巻くおぞましい深層に迫ります。

とにかく謎が謎を呼ぶ展開で、ページをめくる手が止まりません!中禅寺秋彦こと京極堂のうんちくも、おもしろいんですよね。それが物語の世界とマッチしていくわけです。二度も三度も読みたくなる仕掛けがあふれています。

『魍魎の匣』

美少女転落事件とバラバラ殺人事件、その関係性は?

バラバラ殺人のルポを担当することになった関口は、雑誌記者・中禅寺敦子や編集者・鳥口守彦とともに、謎を追っていきます。そこで迷い込んだ森のなかで、正方形の箱と呼ぶべき、巨大な建造物を見つけます。そこは天才医学博士・天馬の研究所。いったい研究所のなかではなにが起こっているか?

シリーズ最高傑作といわれることが多い作品。個人的にも、本作で京極夏彦の世界に心をわしづかみされました。複数のエピソードが展開して、それが絡まるようにして、謎が深まっていき、ある真相にいきつく。この構成が見事なんですね。

このクセになる世界観をぜひ味わってほしいと思います!

『狂骨の夢』

夫を4度殺した女、朱美。冬の海岸で季節外れの釣りをしていた伊佐間一成が、朱美と出会う。海に漂う金色の髑髏、猟奇的な首なし死体、山中での集団自決、生き返った死体といった事象が起こります。惹きつけられる謎の数々。

精神分析の知見が盛り込まれながら、京極堂が憑き物落としに挑むのが、本作の魅力になります!

『鉄鼠の檻』

いきなり出現した修行僧の死体、山中を駆ける振袖の童女、ある寺を中心にして怪異が起こります。

本作では「禅」の概念が中心になります。禅と脳波の研究をこの寺では受け入れていて、僧侶連続殺人事件が起こっていくのです。そこには単なる殺人事件の枠をはるかに超えた世界があった…。

悟りという概念すら取り込みながら、物語を構築しているのはさすがの展開!誰にも何も憑いていないという京極堂の言葉が、本作の謎の深みを感じさせてくれます。

連続目つぶし殺人事件。刑事の木場修太郎が謎を追っていくが、「蜘蛛に訊け」という言葉を残して、友人の川島が姿を消す。

いやぁ完成度が高い作品。散りばめられた伏線が回収されて、怒涛の展開が待っています!百鬼夜行シリーズのなかでも人気で、個人的にも『魍魎の匣』と本作が好みです。

聖ベルナール女学院、織作家は全員女性。さまざまな美女が登場して、謎が深まっていきます。

『塗仏の宴 宴の支度』

6つの話が展開していくので読みやすい構成になっています。

ぬっぺっぽう、うわん、ひょうすべ、わいら、しょうけら、おとろし、それぞれの登場人物も濃いんですね。人間の記憶や意識を操る謎の集団や、予言をなす人物など、うさんくさい術が出てきます。さらに関口巽が逮捕されるという衝撃的な展開も…。

もちろんこれらはまだ序盤にすぎず、京極堂シリーズの人物たちがオールスターのように、それぞれの団体と絡み合っていきます。そして大きな謎を内包しつつ、「宴の始末」へと物語は引き継がれていくのです。

『塗仏の宴 宴の始末』

支度から始末へ…。

自分の意志で、他人の都合で、何者かの催す宴へと、引き寄せられていきます。韮山の戸人村にて、京極堂の憑き物落としがはじまるのが、ゾクゾクっとするんですね。

大きな風呂敷を広げた物語がたたまれていく感動が待っているので、ぜひここまでたどり着いてほしいです!

『陰摩羅鬼の瑕』

原点に帰って、主要舞台を一箇所に限定したスタンダードな館もの。ですが、百鬼夜行シリーズなので、そう単純な話にはなりません。

20数年前から現在まで執拗に繰り返される婚礼時の惨劇、亡き母の幽霊といった、ミステリーな展開を見せてくれます。

嫁いだ花嫁の命が亡くなっていく洋館「鳥の城」でなにが起こっているのか?秀作です!

『邪魅の雫』

江戸川、大磯で毒殺死体が発見されます。これら2つの事件につながりはあるのか?

犯人の仕掛けた罠によって、真相が霞んでいくわけですが、それがまた先が気になって仕方ない!

百鬼夜行シリーズ サイドストーリー

百鬼夜行シリーズにはさまざまなサイドストーリーが展開されています。

『百鬼夜行 陰』(1999年)

百鬼夜行シリーズの登場人物たちが魔に魅入られていく瞬間を、さまざまな妖怪に託して描いています!サイドストーリーであり、本編の味わいが増すことなし。

妻に去られ、孤独な日々を送る元教師の杉浦隆夫は、箪笥の引き出しから白い指先が覗いているのを見る(「小袖の手」)。彫金細工職人の平野祐吉は誰かに見られているという恐怖をおぼえる(「目目連」)。

『百鬼夜行 陽』(2012年)

『狂骨の骨』『陰摩羅鬼の瑕』などのサイドストーリーが展開されます!『鵼の碑』のキーパーソン、寒川秀巳と桜田登和子がそれぞれ登場する「墓の火」「蛇帯」は必読です。

『百器徒然袋 雨』(1999年)

人の記憶を見ることができる探偵・榎木津礼二郎が活躍するスピンオフ中編集!語り手の僕が奉公先てわ乱暴され自殺を図った姪の敵討ちを依頼する「鳴釜」、甕の捜索を依頼される「瓶長」、元貴族院議員の飼っていた山嵐探しが意外な方向に転がる「山嵐」の3編が収録されています。

『百器徒然袋 風』(2004年)

探偵・榎木津礼二郎と彼に振り回される下僕だちの姿を描くシリーズ第2弾!

猫づくしの事件を扱った「五徳猫」、語り手の僕が何者かに拉致される「雲外鏡」、探偵助手の益田が空き巣疑いをかけられる「面霊気」。榎木津礼二郎が出ているだけで、ユーモラスで痛快な世界観になるのは、楽しいです!

『今昔続百鬼 雲』(2001年)

妖怪研究家・多々良勝五郎先生が、沼上と日本各地を歩き、トラブルに巻き込まれていきます。

河童に噛み殺された男の死体を発見する「岸崖小僧」、物忌み中の村で起きた殺人事件「沼田坊」、絶対に負けない賭博師との対決「手の目」、即身仏の謎を追う「古庫裏婆」。妖怪馬鹿コンビのやり取りで読ませてくれます!

『今昔百鬼拾遺 月』(2020年)

雑誌記者・中善寺敦子が女学生の呉美由紀と事件に挑む外伝シリーズ。「鬼」「河童」「天狗」を1冊にまとめたもの。日本刀を使った連続通り魔事件、奇怪な連続水死事件、高尾山での奇妙な失踪事件が起こります。

京極夏彦のデビュー秘話

百鬼夜行シリーズの京極夏彦は、鮮烈なデビューを飾りました。

京極夏彦はもともとグラフィックデザイナーをしていたんですね。バブルが弾けてデザイン業界が影響受けて、仕事が少なくなった。その時間を使って小説を書いていたそうです。妖怪、ミステリー、民俗学、宗教、時代劇、好きな要素をごちゃ混ぜにして、小説は仕上がりました。

応募作の文字数上限を超えすぎて、出版社に一回送ってみようと、講談社に電話して、「その昔、アニメやマンガ、小説などで原稿の持ち込みという古い因習がみられることがありましたが、そうした風習は現在も残存しているでしょうか?」とたずねたといいます。

講談社から広く門戸を開いているといわれて、原稿を送ります。すると数日後、連絡がきて「すぐに出版します」と返事がきたそうです。出版社持ち込みから4ヵ月でデビューが決まったわけです。それだけ完成度が高く、その独特の世界観に編集者もヒットを確実視したのでしょう。

妖怪小説の祭りがはじまる!

とにかく百鬼夜行シリーズの17年ぶりの新作が出るわけで、祭りにならないわけがありません。新作から読んでみるのもいいでしょうし、せっかくなのでこれまでの作品にも触れてほしいと思います!待ち遠しいです。

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