『サピエンス全史』が大きな話題を呼んだハラリの新刊が『ホモ・デウス』だ。
人類の歴史を俯瞰して捉えながら、未来に何が起こるかを予測していてスリリングでした。
人類に立ちはだかる3つの悩み
これから人類が取り組むべきことは何か?
この問いに答えるために、人類に立ちはだかる大きな悩みを考察していきます。人類の天敵ともいえるのは、大きく3つ。
- 飢饉
- 疫病
- 戦争
これって何千年に渡っても不変だったんですね。確かにどれも大きな問題。
だけど本書では、これらの問題はすべてほぼ解決してるよ、としています。
いやいやいや、どれも死者は出てるし根本的解決はハードル高いでしょ?
そう思ったのですが、本書ではデータも使いながら解説していきます。
飢饉
現代では飢えより、飽食が人類の天敵といえそうです。2010年に飢饉と栄養不良で亡くなった人はおよそ100万人。肥満で亡くなった人は300万人以上。
さらに2014年、太りすぎの人は21億人を超え、栄養不良の人は8億5000万人。
疫病
スペイン風邪では5000万〜1億人が没した。天然痘や黒死病も猛威を奮いました。
2000年代に入っても疫病は定期的に発生しています。SARS、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱など。グローバル化による蔓延するスピードが早いという予測もあったけれど、効率的な対策で押さえ込んでいます。
戦争
2012年、戦争の死者は12万人。それに比べて自殺者は80万人、糖尿病で亡くなった人は150万人を超えています。
人類が新たに取り組むべきこと
飢饉、疫病、戦争。どれも未だに根本解決には至りませんが、相対的には死者の割合は減っているようです。あくまで相対的にはですけど。
で、本書では人類が新たに取り組むこととして、以下の3つを挙げています。
- 不死を目指す可能性が高い
- 幸福へのカギを見つけようとする
- 神性を獲得しようとするだろう
これらの根拠として、人類の影響力について論じていきます。
ホモ・サピエンスの影響力とは?
過去7万年間は、人類のことを「人新世」と呼ぶほうがいいとしています。ホモ・サピエンスは地球の生態環境に変化をもたらす存在になったから。
そこで家畜の数。
- 人間3億トン
- 家畜7億トン
- 野生の大型動物1億トン
人類が動物たちの生態をコントロールしているわけです。
そして近代になると、経済成長が当たり前の時代から人間至上主義革命が起こったとします。
人間至上主義とは、人間性を崇拝し、神や自然の摂理が演じた役割を、人間性が果たすものと考えること。
人間性への懐疑が起こる
ここから20世紀に入ると、人間性への懐疑が起こります。人間には自由意志があるとされてきたが、科学によって、遺伝子とホルモンとニューロンがあるだけと結論づけられます。魂も自由意志も自己も見つからなかったんですね。
すなわち、生き物はアルゴリズムであるわけです。ホモ・サピエンスも含め、あらゆる動物は膨大な歳月をかけた進化を通して、自然選択によって形作られた有機的なアルゴリズムの集合。
で、21世紀はアルゴリズムが支配すると予測しています。
アルゴリズムとは、計算をし、問題を解決し、決定に至るために利用できる、一連の秩序だったステップのこと。
人間の意志を尊重する自由主義が脅威にさらされているんですね。
軍事的にも経済的にも人間が無用になっていく。経済と政治の制度は将来も人間を必要とするが、個人は必要としない可能性があるわけです。
さらに自己の話に及びます。それまでは自分を知ってるのは自分自身でした。それが、21世紀のテクノロジーによって外部のアルゴリズムが私よりも私を知る可能性が高くなっていくのです。
つまりは、GoogleやFacebookが全知の巫女となりうる時代ということです。
これは生物学のせい。人間をアルゴリズムだと生命科学は結論づけたから…
格差はさらに広がっていく
さらに人類の脅威としては、格差を指摘しています。
一部の人は絶対不可欠なままで、彼らがアップグレードされた少数の特権エリート階級になるかもしれない。
誰にも例外なく豊かさと健康と平和を与えてきたのに、それが難しくなってくるだろうと指摘します。
予防医学はまさに象徴的です。これまでは病気になった人へのケアでしたが、これからは事前にケアするようになる。すると、予防には際限がないので、医療費も莫大なものになります。これを国民全員が享受することはできないわけです。
いやぁ命の格差とも呼べる事態。
人間性とは何か?最後の問いかけ
この世界は「データ教」になりつつあります。これは進化論とチューリングからのアルゴリズムをまとめた結果。
人間の経験が動物より優れているわけではなく、経験をデータ化できることに価値がある。そう本書では説明されます。
で、進化論としてすこぶる正しいと。
「自分の体験をデータに変換しているのは、生き延びられるかどうかの問題なのだ」
科学は、生き物はアルゴリズムであり、生命はデータ処理だという教義に収斂されつつあると言います。知能は意識から分離しつつあるとも。
なんだか愕然とする結論ですね。
高度なアルゴリズムが自分自身を知るよりも私たちを知るようになるかもしれない。これは実感としてもあります。
それでもハラリは最後にこう問いかけます。
- 生き物は本当にアルゴリズムにすぎないのか?
- そして、生命は本当にデータ処理にすぎないのか?
- 知能と意識のどちらのほうが価値があるのか?
- 意識は持たないものの高度な知能を備えたアルゴリズムが、私たちが自分自身を知るよりもよく私たちのことを知るようになったとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか?
人類史をマクロな視点でとらえ直し、今作も刺激に満ちた内容でした。おすすめ!
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