韓国小説はいまや一大ジャンルとなり、多くの読者を集めています。
個人的に必読だと思う韓国小説5作品のほか、フェミニズム小説、社会派小説、ユーモア小説、ミステリー小説に分けて、おすすめ作品を紹介していきます!
韓国小説の必読5作品
まずは韓国小説のなかで話題を集めるとともに、人気がある5作品になります。
『82年生まれ、キム・ジヨン』
韓国では130万部を超え、日本でも20万部を超える売上を記録!
韓国における82年生まれに最も多い名前であるキム・ジヨン氏の人生を描いていきます。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児を追い、女性であるからこその困難や差別が見えてきます。淡々と女性の現状を描いていくだけに、じわりじわりとキム・ジヨン氏の現状がのしかってくる。
そして冒頭で明かされるのですが、キム・ジヨン氏は精神が崩壊していたことが分かってきます。
同時に韓国の社会背景も克明に記されていきます。80年代には家族計画によって男の子を生むことが良いこととされ、女児の堕胎がおおっぴらに行われたといいます。就職差別もあり、女性への結婚すべきという抑圧もあった。キム・ジヨン氏という1人の女性の人生を克明に描くことで、かえってこれは私の物語だと、女性が共感を呼ぶのは、それだけ社会が女性に対して抑圧的だったということ。
韓国文学という枠を超えて、今こそ読むべき作品です。
『アーモンド』
怒りや恐怖といった感情がわからない15歳のユンジュに、大きな悲劇が襲う。そして衝動で生きるゴニと出会うのだが…。
ユンジュが普通に生きられるように、母親は喜怒哀楽といった感情を丸暗記させるんですね。この日常にどう溶け込むかが、前半は興味深くて、スルスルっと読めてしまいます。そして後半は怒涛の展開で、もうページをめくる手が止まらない状態になりました。涙があふれてしまう。
2020年本屋大賞の翻訳小説部門で、1位になったことでも、話題を集めました。
『ピンポン』
苛烈ないじめにあっている男子中学生2人。世界の歴史が集約された卓球台に導かれて、人類の存亡をめぐる決断を迫られる…。
これはもう冒頭からグッと心をつかまれてしまいます。卓球しているだけなのに、人類のこれからの左右する展開になっていくんですね。それでいて、まっとうに生きようとする人への愛に満ちあふれた作品になっている。ぜひこの世界観を味わってほしいです!
『ミカンの味』
映画サークルで出会った4人の女子中学生の物語。彼女たちは、衝動的にひとつの約束をして、タイムカプセルを埋める。
青春ストーリーかと思いきや、その瞬間に悩みを抱えた彼女たちの思いが伝わってきます。大人になった4人の関係性も読ませる。
著者であるチョ・ナムジュが、「たくましくて勇敢で健康な子どもたちの姿を記録として残したかった」というように、彼女たちの生き様に魅せられます。
『保健室のアン・ウニョン先生』
とある私立高校に赴任してきた保健室の先生アン・ウニョン。彼女には特殊な能力があった…。
校内では不思議な現象が起こるのですが、アン・ウニョンはBB弾とレインボーカラーの剣で立ち向かうんですね。アン・ウニョン自体が魅力的で、悪態をつきながら雑な性格。
唯一無二の世界観がたまらないです!
韓国フェミニズム小説
韓国小説が注目されたのは、フェミニズム小説のジャンルから。韓国フェミニズム小説を厳選して紹介していきます。
『彼女の名前は』
さまざまな女性の物語が、28編収められています。セクハラ被害をあった女性、離婚をしてしまった女性、妊娠した女性、孫を育てる祖母…。
本書を読むと女性はステレオタイプになりやすいなぁと感じます。天使のような女性、悪女、優しい母親。そんな型にはめる必要はないんですよね。
著者は、『82年生まれ、キム・ジヨン』のチョ・ナムジュ。女性の生きやすい社会になるように、半歩でも前に歩もう。そんな力強さを感じさせる作品です。
『屋上で会いましょう』
職場でのハラスメントに心にダメージを負い、毎日のように屋上から飛び降りたいという考えてしまう…。
表題作『屋上で会いましょう』のほか、女性が生きる困難と希望を描く短編集。どの短編もリアルさがあり、フェミニズムへの力強さがあります。
『フィフティ・ピープル』
郊外の病院を舞台に、50名の人生の一瞬を描き出す。少しずつ登場人物の物語が絡み合っていく。
すべての登場人物が愛おしくなってしまいます。
『別の人』
性暴力をテーマとするフェミニズム小説。性被害者の複雑な心理を描く。加害者はその罪深さに気づけないことが突きつけられます。
『三十の反撃』
30歳で非正規社員のキム・ジヘは、平凡な大人と自覚している。ジヘは、大企業の正社員を目指そうともがく。そこに、同じ年の同僚ギュオクが、この社会への小さな反撃を始めようと提案する…。
『アーモンド』の著者の作品。ジヘが自分を見つめ直して、本当にしたことはなにかを考えていきます。現代社会のリアリティを感じさせる物語だと思いました。
韓国社会派小説
韓国の映画やドラマもそうですが、小説にも重厚な社会派作品が多数あります。おすすめしたい韓国社会派小説を紹介していきましょう。
『菜食主義者』
動物の肉を拒否するヨンヘは、社会の生の根底にある暴力を見抜く。そしてヨンヘは、異なる存在へ生まれ変わることを望むのだった。
3つの作品からなる連作小説集。
『回復する人間』
何かを失い、回復していく人たちの物語が詰まった短編集。
表題作の『回復する人間』は、姉を亡くした妹が主人公。妹はくるぶしに火傷をするものの、病院に行くのが遅くなり、あとに残るかもしれないと医師に言われてしまう…。体の傷と心の傷に向き合う姿が、うまい構成です。
『少年が来る』
光州事件での暴力や魂が傷つけられた人を、真正面から描き切る。
短編集でありながら、それぞれの人たちの心の傷が描かれていて、光州事件の悲劇が突きつけられます。
光州事件とは、民主化運動を行っていた市民を、軍が虐殺した事件。犠牲になって死亡した市民は、150名以上ともいわれています。メディアへの情報統制が行われ、まさに国家の暴力が発動してしまったといえます。
「私は闘っています。日々1人で闘っています。生き残ったという、まだ生きているという恥辱と闘うのです。私が人間だという事実と闘うのです」
『ディディの傘』
2人の語り手dと私の視点が交差する物語。
セウォル号事件の犠牲者追悼とキャンドル集会という市民運動のうねりを描いていきます。セウォル号事件をテーマにした中編小説になっています。
『夜は歌う』
日本の支配下にあった1930年代の延辺が舞台。中国の共産党にスパイだと疑われて、魔女狩りが行われていた…。
物静かな文学青年が巻き込まれていく展開に、息がつまります。
韓国エンタメ小説
エンタメ力全開!一気読みしてしまう作品を中心に紹介します。
『カステラ』
20世紀がまるごと家庭用冷蔵庫に格納される。ゲーム中毒の上司がタヌキになる。空飛ぶスワンボートで中国まで出稼ぎに行く。どういう想像力で描いているのか、驚きの作品ばかり!
『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』
韓国プロ野球の創成期、超弱小の地元プロ野球球団があった。このダメチームのファンだった2人の少年は大人になっていく…。
競走社会に打ちのめされた人々への応援歌!生きていくうえでの大切なものを考えさせられる物語になっていきます。
『鯨』
ある時代に栄え、やがて何もない原野になった町が舞台。
親子であるクムポクとチュニの2人がどちらもキャラが強い。クムボクは多くの男の運命を狂わせ、チュニは怪力の持ち主で人ならざる者と心を通わすことができます。どういった設定!?
とにかくスケールがでかく、メガノベルとして一気に読めてしまいます!
『ダブルサイドA』『ダブルサイドB』
ソウルのオフィス街に、真っ白い何かが浮かんでいる。宇宙船ではなく、巨大なアスピリンだとわかる!そして、社運を賭けたコンペが始まる。
日常と非日常が同時進行して、なんとも奇妙な読書体験ができます。
『大都会の愛し方』
大都会のソウルで多様な愛の形を描く。饒舌でスピード感があるラブストーリーがまとまっています!
韓国ミステリー小説
韓国ミステリー、アイデアがおもしろいものがそろっています!
『殺人者の記憶法』
アルツハイマーを患ったことで記憶が抜け落ちるようになった殺人鬼の手記が綴られる。
殺人鬼が、新たな殺人鬼に出会うという構成で、どういう設定なんだと驚きながら読んでしまいました。殺人鬼の哲学的な語りもおもしろい。ソルギョング主演で映画化もされています。
『風の絵師』
宮中絵師の謎を追う、歴史美術ミステリー。韓国ドラマや映画、小説でも時代劇ものは定番。本作も重厚感がありながら、謎が謎を呼ぶ展開に魅了されてしまいます。宮中絵師は実在の人物なので、韓国の歴史を深掘りしたくなるのも魅力です。
『ホール』
事故によって全身不随になった男が、妻の母親との同居生活で味わう恐怖を描く。スティーブン・キングの『ミザリー』を想起させますが、本作ならではの展開が待っていて、ゾクゾクすること間違いなしです!
韓国小説は時代を描く
韓国小説の魅力は、今の時代をしっかり描いている点になると感じています。フェミニズムについても、描くべくして描かれたという作品が多い。だからこそ、読者の心にグサッと刺さる。
もちろんエンタメ作品も多いので、気になるジャンルの作品から手に取ってみてはいかがでしょうか。
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