アンチもいるだろうし、炎上芸だと言う人もいるだろうけど、絵本『えんとつ町のプペル』は30万部突破し、本書『魔法のコンパス』も10万部。ネットメディアをうまく使いこなし、時代の波を予見し、そして結果を出している。
『魔法のコンパス』は西野亮廣の初のビジネス書。ともかくビビるのは文章が上手いこと。
全334ページあるけどスラスラ読める。話し言葉のように書いていてリズムがいい。1行の文字数、余白の使い方も計算されている。読んでいて気持ち良かった。
ざっくり3行でまとめると…
掴みがうまい
冒頭のエピソードで、この本はビジネスにヒントを得られそうだぞと、思わせてくれる。
『魔法のコンパス』で選ばれたエピソードは箱根駅伝だ。駅伝ランナーが走る速度は時速20キロ。これってすさまじい。だけど、テレビを見ていると、そのスゴさがイマイチ伝わらない。
この原因は白バイ。
白バイが余裕で走っているから、ランナーのスゴさが伝わらないのだと。著者は「取りこぼし」と言う言葉を使っている。そして取りこぼさないためには、ズバリ自転車で並走すべきだとする。
このエピソードを持って来るあたり、西野の芸人としてのスキルが活かされているんだろうなと思った。まさにお笑いでいうところの掴みがうまい。
ここから西野劇場が華々しく始まり、ページを繰る手は加速していく。
道なき道の歩き方
『魔法のコンパス』では、副題でもある「道なき道の歩き方」を提示しているわけだけど、
- 「問い」を持つ
- 「答え方」を探る
- 信用の面積を広げる
- レアカード化する
これらの手法を提示している。
「問い」を持つ
実践的なところで言うと、まずは「問い」を持つことの大切さを説いている。「問い」とは釈然としないことへの苛立ちと言ってもいい。
居心地が良い場所には、「問い」はあまり落ちていない。問いを持つために問いが落ちている場所に行くべきだとする。
西野の場合は、ゴールデンに進出し視聴率20%を超えた『はねるのトビラ』時代に、行動を起こした。お笑いで頂点を究めたかと思いきや、この当時、絶望を感じてたという。
瞬間最大風速が吹いていて全ての条件がそろっていたけど、スターにはなれなかった。上にはダウンタウン、タモリ、たけし、さんまが相変わらずいた。
世界は驚くほど変わらなかった。
そして西野は「種の変更」を試みる。この辺りの焦燥感は、目指すところが高いんだなと思った。通常は満足してしまいそうだけど…。
進化のために一番便利な部位を切り落とす行為、すなわちレギュラー以外のテレビ出演をやめるという暴挙に出る。周囲の混乱ぶりが目に見えるようだ。
「答え方」を探る
「問い」があれば、「答え方」を探る作業をしていく。自分なりの仮説を繰り返して。
西野の場合は、『はねるのトビラ』ではスターになれなかった。ならば芸人とは違うベクトルで特技を探そう。絵本を描こうという思考になった。
ヨットにように進むことを心がけているそうで、向かい風であろうと、ごちそうさま精神で追い風にしちゃう。無風が一番大変で手漕ぎで行かないといけない。注目されてなんぼですね。
信用の面積を広げる
ホームレス小谷さんの話がおもしろい。彼は1日50円で自分の時間を売って生活しているそうだ。といっても1日50円じゃ食べていけない…。毎日稼働しても、ひと月で1500円だしね。
だけど小谷さんはお金持ちではないけど、信用持ち。例えば、家の庭掃除に行って朝から晩まで働く。あまりにも一生懸命に働くから、雇った人が昼ご飯や夜ご飯をご馳走しようとしてくれる。購入者は50円以上払っているのに、さらにありがとうという信用もプラスされる。
小谷さんが、クラウドファインディングで自分の結婚資金を呼びかけたら、あっという間に170万円が集まったという。
信用が数値化されて、しかもお金に転換されるというわけ。
お金を稼ぐだとどこから手をつけていいのか迷う。信頼の面接を広げると考えると霧が晴れる。
レアカード化する
そして、リクルートを経て中学校校長になった藤原和博さんが提案している話を引用している。藤原さんは自分を「レアカード化」する必要があると説く。
1万時間かければ100人に1人になれる、これを前提とする。
Aという分野だけで勝つのは大変。新たにBという分野で掛け合わせていく。さらにCにも投じて、この3点で結んだ三角形の面積がその人の需要であり、この三角形がクレジットと呼ぶ。この3点は、離れていればいるほど良いという。
マーケティング手法
西野はお笑い芸人だったときはクリエイターと言える。だけどそれだけじゃ、届かない。流通にも手を抜かずに試行錯誤していて、かなりマメだなぁと。
お土産化
エンタメって生活に必要ではない。では必要じゃないものでも、買われるのは何か?
この「問い」に対しては、答えをお土産だとした。お土産は変なキーホルダーでも買ってしまうことがある。
- お土産化に必要なのは思い出作り
- 思い出作りに必要なのは体験。
これを絵本で考えると、絵本の原画展をやって体験させる。それが思い出を作ることになり、その場で絵本を購入する動機になる。
Twitterで1対1を1万回繰り返す
SNSの使い方も明確で、Twitterを1万人に網をかけるツールではなくなったと分析。それよりも1対1を1万回繰り返して、接した方が効率が良いとしている。
ネタバレと確認作業
人が時間やお金を割いてその場に足を運ぶ動機はいつだって確認作業。未知なものって体験してもらうの大変。まずは知ってもらうことから。
旅行とかはまさにそうで、ガイド本とかで現地の写真見てるし。それで行ってみたいと思う。現地で確認しているだけではあるけど、現地でしかできない体験がそこにある。
絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開してたけど、この理由から。ネタばれ大いに結構。
マネジメント手法
あと意外かもしれないけど、チーム力を最大化する方法について、ヒントをもらえた。
絵と音楽でイメージ共有
ここをこうしてください!と指示するとそれ以上にはならないし、スタッフが窮屈そう。みなさんの好きなようにしてください!これだとバラバラに。
まさにジレンマ。マネジメントのあるあるな状況。
そこで西野は音楽を使ったそうだ。おとぎ町ビエンナーレの会場作りで、80人近いスタッフがいた。会場の雰囲気を描いた簡単なイラスト1枚と、アイリッシュの曲3〜4曲。
そうしたら思い描いた空間が出来上がった。
これ使えるかも。細かい共有より、ざっくりとした概念で共有した方が、それぞれの自由度が上がって、強みが活かせる。もちろんプロの仕事ができるメンバーを揃えることは大前提だと思うのだけれど。
タモリさんのグッとくる言葉
本書ではタモリさんの名前が何度か出てくる。西野に絵を描くのを勧めたのはタモリさんだとか。
タモリさんが戦争がなくならない理由とは?と問いかけたときのエピソードはグッとくる。西野が言いよどんでいると、タモリさんが話し出した。本筋と離れるけど、引用してみる。
「それはな、人間の中に『好き』という感情があるからだ。そんなものがあるから、好きな物を他人から奪ってしまう。また、好きな物を奪った奴を憎んでしまう。ホラ、自分の恋人をレイプした奴を『殺したい』と思うだろう? でも恋人のことを好きじゃなかったら、攻撃に転じることはない。残念だけど、人間の中に『好き』という感情がある以上、この連鎖は止められないんだ。『LOVE&PEACE』という言葉があるけど、LOVEさえなければ、PEACEなんだよ。その生き方はかぎりなく動物や植物の世界に近いな。ただ、『好き』がない世界というのもツマラナイだろう? 難しい問題だよ、これは。どうしたもんかね?」
いやぁ、カッコいい。
おすすめ度9 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★
ホント読みやすかった。読みやすいは、SNS時代においてはものすごい武器になる。かなり有効活用しているなと。ドキドキしながら読み進むことができました。文章術とかも読みたい。
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