心理的安全性。
Googleが標榜していることもあり、言葉だけは浸透しているのかなと思います。ですが、甘えやゆるさと捉えることもあり、なんだか違和感がありました。
『恐れのない組織』の著者は、「心理的安全性」という概念を1999年に提唱した、米ハーバード大学のエドモンドソン教授。心理的安全性がなにかを知るには、まさにこの本にあたれ!というべき内容になっています。
- なぜ心理的安全性が求められるのか?
- 恐れがある組織があたり前だった時代
- 心理的安全性でよく言われる勘違いとは?
- ピクサーは恐れのない組織になっている!?
- 恐れのない組織を作るための方法
- 心理的安全性が高まるフレーズを意識しよう
なぜ心理的安全性が求められるのか?
まずそもそもなぜ心理的安全性が必要なのかから解説されています。
現代は、複雑で不確実な世界。そこで成功するためには、心理的安全性が必要と説きます。組織やチームが躍動するには、外せない要素で、パフォーマンスに影響するというわけです。
冒頭に医療チームの実験結果が出てきます。複数の医療チームに、どのくらいのミスが生じるかを確認した実験です。そこで著者は、最も高い成果をあげるチームが、最もミスが少ないという仮説を立てました。だが結果は逆。最も高い成果をあげるチームが、ミスが最も多かった。少し混乱したけれど原因を探ると、これはミスを言いやすい環境があったからということがわかります。
少し考えればわかりますよね。ミスを報告しなければ、悪化する一方です。チーム内で共有することもできません。ミスを報告しやすい環境であれば、すぐに改善に動くことができます。全員に共有することで、同じミスを繰り返さない成果をあげるチームになっていくわけです。
恐れがある組織があたり前だった時代
心理的に安全な職場では、対人関係の不安に悩まされることはないと言います。
職場では、さまざまな対人関係のリスクにさらされています。上位の人が評価する。同僚や部下も非公式に評価する。質問したり、ミスを認めたり、アイデアを提供したり、計画を批判したりしたら、無知・無能・でしゃばりと思われるかもしれない。会社組織には、このような不安が蔓延しやすい仕組みが内包されているのです。
不安をあおって、社員のやる気を高める手法がずっとあたり前の時代がありました。例として『レミーのおいしいレストラン』が出てきます。
しかし、組織が躍動するには、対人関係の恐れはまったく必要がないこと。心理的安全性は、単なる職場の個性ではなく、リーダーが生み出せるし生み出さなければならない職場の特徴だと断言しています。そう恐れるべきは、会社のメンバーがしっかりと関与できていないこと。恐れのない組織を目指すべきなのです。
心理的安全性でよく言われる勘違いとは?
心理的安全性という言葉だけが独り歩きして、よくある勘違いもまとめられています。
心理的安全性は感じよく振る舞うこととは関係ない
心理的安全性は、相手の意見に無条件で賛成することではありません。心理的安全性を感じることができれば、対立を厭わず、率直に発言することができるようになります。
心理的安全性は性格の問題ではない
心理的安全性があれば、アイデアを提供し懸念を述べることができるようになる。もともとの内向的か外交的かといった性格の問題ではありません。
心理的安全性は信頼の別名ではない
この言葉は自分自身には発見でした。大きな違いは、心理的安全性はグループレベルで経験される点だそうです。「信頼」は2人の個人、2つの組織間での相互作用のこと。つまり個人の心のなかに存在し、特定の相手である個人や組織と関連している。
信頼とは、あなたが他者を信じてみること。心理的安全性は、あなたが支援を求めたり過ちを認めたりしたときに、他者があなたをとりあえず信じてみようと思ってくれること。
こう見てみると、似ているようで、まったく違う概念だとわかります。
心理的安全性は目標達成基準を下げることではない
心理的安全性は、高い基準も納期も守る必要のない勝手気ままな環境のことではありません。逆にパフォーマンスが上がる下地になりえる。
心理的安全性が低いと、業績基準が低いと「無気力ゾーン」へ。業績基準が高いと「不安ゾーン」へ。反対に心理的安全性が高いと、業績基準が低いと「快適ゾーン」、業績基準が高いと「高パフォーマンスゾーン」になるというのは、わかりやすかったです。
ピクサーは恐れのない組織になっている!?
人は言いたい内容が、組織や個人にとって重要だと思われるときでさえ、黙っている場合が多い。これは耳が痛い話です。具体例をいくつか挙げています。
2003年NASAのコロンビア号で7人が命を落とした事故。この事故の2週間前、エンジニアが違和感を発見していたそうです。しかし全体会議で序列が上の人にモノを言えずに、違和感を共有できなかった。そして事故が起こってしまった…。
恐れのない組織の例として、ピクサーが紹介されています。ピクサーでは、「ブレイントラスト」というミーティングが行われます。ブレイントラストでは、作品への率直なフィードバックが行われます。ルールとして、フィードバックするには個人ではなくプロジェクトに対してというものがあります。最終的に、監督が採用の可否を決める。あら捜しして恥をかかせるのではなく、共感の観点を持つ。創業当時、ピクサーの社長であったキャットムルによれば、最初はどの作品も「箸にも棒にもかからない駄作」というわけです。
また、日本が引き起こした3・11については悪い面と良い面で紹介されています。良い面としては、第2原発のリーダー増田尚宏が、過ちを正して、とことん率直になったことで現場の協力を得られたという話に触れています。
恐れのない組織を作るための方法
では、実際には恐れのない組織を作るには、どうすればいいのでしょうか?3つの要素が紹介されていますので、それぞれ見ていきましょう。
土台をつくる
土台をつくるとは、仕事をフレーミングすること。フレームとは、思い込み、現実について積み重ねていく信念のことになります。過去の経験が影響していることに、人は気づくことすらできない。医療現場ではミスがあるものとデータで示すなど、リーダーがフレームを作ることが大事。その前提で医療ミスをなくすことを提示していくのです。
また同時に目的を際立たせることが必要になります。危機にさらされるものと、それがなぜ誰にとって重要かを意識していく。まさにチームの土台作りです。
参加を求める
当然ながらメンバーがコミットしていかなければ、恐れのない組織は絵に描いた餅になりかねません。参加を求めるために、探究的な質問をすることが有効的。仕組みとプロセスを確立してきます。
生産的に対応する
生産的なフィードバックをしていくことで、恐れのない組織を確立していきます。感謝を表す、失敗を恥ずかしいものとしない、明らかな違反に制裁措置をとるといったフォードバックが紹介されています。
心理的安全性が高まるフレーズを意識しよう
最後に心理的安全性が高まるフレーズを紹介したいと思います。
- わかりません
- 手助けが必要です
- 間違ってしまいました
- 申し訳ありません
- どんな手助けができますか
- どんな問題にぶつかっていますか
- どんなことが気がかりですか
心理的安全性を高めることができるのは、何もリーダーだけではありません。これからのフレーズを言えるように問いからはじめてもいいでしょう。少しの言葉だけで変わっていけるはず。恐れのない組織を確立する方法として参考にしたい一冊でした。
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