『七人の侍』『隠し砦の三悪人』『椿三十郎』といった映画史に残る傑作を数多く生み出した黒澤明。その凄みやこだわりを知るうえで、読んでおきたい本を紹介していきます。
観ておきたい黒澤明のおすすめ映画も、1行紹介もまとめています。
黒澤明おすすめ書籍
黒澤明の映画術や人柄が見えてくる書籍になります。
『黒澤明の映画入門』
黒澤明研究の第一人者による入門書。平易な言葉で、黒澤明の魅力がまとめられていて、読みやすいです。また黒澤明の各作品の紹介が、おもしろくなっています。
『脚本家 黒澤明』
値段は高いのですが、かなりおすすめです。中身が充実しています。黒澤明の原点は脚本家なんですね。助監督時代も夜を徹して脚本をつくっていて、原点を知ることができます。
見ごたえがあるのは、『隠し砦の三悪人』が4人の脚本を突き合わせて、この場面はこの人の内容を採用としていたことが、図をつかって把握することができます。
『生きる』はゲーテ『ファウスト』の流れを汲んでいて、場面ごとの違いもわかります。
黒澤明の創作術を知りたいなら、マストな一冊です。
『キネマ旬報 黒澤明』
黒澤明のインタビューから、スタッフ、キャストの肉声が収録されています。礼賛の向きがあるものの、多面的な黒澤明を知りたいなら読んで損はない内容になっています。
- 「ドストエフスキーが好き。悲惨なことがあるといっしょに苦しんでしまう」
- 「脚本協力を入れる。1人だと一面的になる。新しい人を入れる。2人でディスカッションしながら」
- 「シナリオの作り方は、同じテーブルに離れて座って、それぞれが脚本を書く。競争。お互いに書いたものを見せる。向こうのを取って書き直す。ディスカッションもする。箱書きはしない。この人物はこういう人間関係でこういう点に追い詰められている、そうすると人物が動き出す。動き出すまでがしんどい。それまでに頭の中で何ヵ月もかかります」
『七人の侍と現代』
日本だけではなく世界に知られた『七人の侍』にフォーカスして、この作品がなにをもたらしたのかを考察していきます。
『黒澤明から聞いたこと』
映像プロデューサーであり黒澤映像プロモーションの専務取締役を担当していた著者が、黒澤明から聞いたことを紹介していきます。
『回想 黒澤明』
実の娘から見た黒澤明の実像が、赤裸々に語られています。衣装担当として、『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』の3作で映画作りにも参加しているんですね。
『黒沢明、宮崎駿、北野武―日本の三人の演出家』
ロッキンオンの渋谷陽一によるインタビュー。黒澤明、宮崎駿、北野武、この3人を並べることで日本映画の現在を読み取ってほしい、という意図があるそうです。表現者のエゴを押し出しながら、大衆に受けることができている。そのヒントが見えてきます。
黒澤明「セザンヌはずっと長い時間、描いている。見えているものが違う。それをなんとか描こうとしている。だからできあがったものは、ものすごく存在感がある。下手な人はすぐに描けちゃう」
『黒澤明の映画術』
黒澤明はなによりもまず技術の人である。映画批評家の樋口尚文がアクション、パノラマ的映像、空間、色彩、装置といった項目ごとに、黒澤明の映画術を評論しています。黒澤明の映画術を把握する上で、かなり充実した内容になっています。
『黒澤明 人と芸術』
黒澤明が映画人としてどのような軌跡を歩んだのか、豊富な資料とともにまとめている一冊です。時代背景も感じられて、黒澤明が残したものが見えてきます。
黒澤明が1行で語る自作映画
- 『姿三四郎』作りながらただただ面白かった
- 『わが青春に悔なし』これがはじめて僕にとっては、作品の上でものが言える写真だな
- 『酔いどれ天使』ここでやっと、これが俺だというものが出てきた
- 『羅生門』橋本くんから脚本もらった
- 『白痴』辛かった、手に余ったなんてものじゃない。酷評
- 『生きる』気取りがある着飾っている写真。白痴で失敗に終わって、人間を押しその肉付けを獲得せよ、芸術映画にして通俗映画と創作ノートに記していた。平凡な庶民が国民的英雄になる
- 『七人の侍』もっとたっぷりごちそうを食べさせたい
- 『生きものの記録』自分を全部出してしまった
- 『蜘蛛巣城』マクベス、骨組みのガッチリしたものに取り組みたかったのかも
- 『どん底』ちゃんとした演劇はちゃんとした映画になる
- 『隠し砦の三悪人』しんどいのやったらから、追っかけ形式のおもしろいものをやりたかった
- 『悪い奴ほどよく眠る』儲けではなく難しいものに取り組んでやろうと思った。あえてモノクロ。煙突に赤い煙が象徴的
- 『用心棒』のびのびと撮りました
- 『椿三十郎』久しぶりに喜劇的なものができた。「あなたは良く切れる刀のよう、でも本当にいい刀は鞘のうちにあるもの
- 『天国と地獄』エド・マクベイン小説を読んで作りたくなった
- 『赤ひげ』原作に前から惚れ込んでいた、集大成な作品
黒澤明のネタバレ映画感想
個人的な映画感想をまとめていきます。
『用心棒』
かっこよすぎる。最後の決闘では銃を持つ相手に恐れずに近づき、ナイフを投げて一気に斬りつける。複数の相手を斬って斬って、圧巻の展開です。
構図がいい。人質の顔アップでその後ろの土ぼこりから、三十郎がやってくるんですね。
ほかにも高みの見物している場面なのに、やたらアングルに凝っている。
『椿三十郎』
「あなたは良く切れる刀のよう、でも本当にいい刀は鞘のうちにあるもの」椿三十郎の豪快さに対しての一言。これが本作の肝になっている。
ラストの対決は圧巻。一瞬の切り合いから、相手の血飛沫が出てくる。かっこいい。
『悪い奴ほどよく眠る』
エレベーターが開く場面から始まる。ずらっと両側に人が並んで迎え入れる。見てしまうなぁ。
そして結婚披露宴へ。新婦の兄の名演説。新郎が疑いの目があるが、信頼していることとともに、妹への愛を感じさせる内容になっている。ケーキカットでは不穏なものが…。
結婚披露宴だけで展開していく前半は、かなり見入ってしまいます。
『生きる』
わかりやすい内容。役所でなにも考えずに働いていた男が余命わずかと知って、生きる意味を考え出す。葬式で集まる人々が話す場面からの有名な公園のシーンへ転換していく。感動です。
『天国と地獄』
誘拐犯へのお金の受け渡しはいま見てもサスペンスあふれる内容になっています。
モノクロで展開されるのに、ある場面だけカラーに。犯人がいるところが煙突の煙で判明。赤い煙なんですね。これは実際に劇場で見たら衝撃だったろうと思います。
「脚本家・黒澤明」展示へ
- 会場:国立映画アーカイブ 展示室(7階)
- 会期:2022.8.2 – 2022.11.27
「脚本家・黒澤明」の展示レポートになります。
1章 脚本家・黒澤明の誕生
- 山本嘉次郎「彼をして、早く監督にさせた重要な根拠は、彼がシナリオを書き、そのシナリオが優れていたことである」
- 高峰秀子「彼は毎晩この布団部屋で脚本を書いていたのである」
- 谷口千吉「当たりもしねぇものをこの馬鹿野郎がと思っていたら、それがまあ2、3年経ってからスパスパ当たりだしましてねぇ、慌てました」
2章 敬愛した文豪たち
- シナリオに関する黒澤明の発言「映画におけるシナリオの地位は、米作における苗作りのようなものだと思っている。弱い苗からは絶対に豊かな稔りは期待できない。弱いシナリオからは絶対にすぐれた映画は出来上がらない」
- シナリオの主人公について「シナリオの大黒柱は、なんといってもその主人公だ、と僕は思っている。興味の持てない人物が主人公では、シナリオが肥りようがない。少なくともまず、映画を見終わったあとの電車のなかだけでも話題になるような人物が想像できなければ話にならない」
- トルストイ『戦争と平和』のエピソードやセリフは『白痴』『七人の侍』で使われている
- ドストエフスキー「たいへんな悲劇なものを見た時、目を背けないで一緒に苦しんじゃう。そういう点、人間じゃなくて神様みたいな素質を持っていると僕は思うのです」
- バルザック『人間喜劇』は登場人物が3,000人以上。キャラクター造形に抜きん出ている。『知られざる傑作』映画化してみたかった
- 白痴 ドストエフスキーの原作から4人の男女の愛憎劇に
- 生きる ゲーテ『ファウスト』から脚本を構築している
- 能や狂言 『森の千一夜』『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『乱』『影武者』が参考にしている
3章『七人の侍』創作の秘密
- キャラクター造形:シナリオが行き詰まって、コメディリリーフが必要だとした。そこから菊千代の造形が固まっていった。『壊滅』のモロースカをベースに善兵衛という人物をつくろうとしたがうまくいかず、『戦争と平野』の道化役チーホンの要素を取り入れて、菊千代になっていった。
- 小説 『壊滅』アレクサンドルを下敷きに、『戦争と平和』トルストイのエピソードも取り入れている
4章 創造の軌跡1 『隠し砦の三悪人』をめぐって
菊島隆三の第一案をふくらませる形で、黒澤明、菊島、小国秀雄、橋本忍の4人が旅館に泊まり込んで書いた。全体を通したたたき台がなく、各脚本家が同時に各シーンを執筆する「いきなり決定稿」方式で作られた。
5章 創造の軌跡2 改訂
『生きる』
準備稿と決定稿ではまるで違う印象に。
新聞記者たち→社会的な意味や狂言回し
主婦たち→恩恵を受けた人たち公園建設の価値を伝える
部長→中座させたことで官僚組織を伝える
公園予算の獲得→老練な手段を用いるから、愚直に懇願するにした
『悪い奴ほどよく眠る』
検討稿と決定稿
西のみによる復讐劇→西と板倉による復讐劇
結婚式の祝辞→佳子への妹愛を強調した
『隠し砦の三悪人』
黒澤明を含めた4人で旅館に泊まり込んで、脚本を仕上げていった。全体を通したたたき台がなく、各脚本家が同時に各シーンを執筆する「いきなり決定稿」方式で作られた。同じテーブルに離れて座って、それぞれが脚本を書く。競争。お互いに書いたものを見せる。向こうのを取って書き直す。ディスカッションもする。
『生きる』
ゲーテ『ファウスト』の流れを汲んで、脚本が練り込まれた。飲み屋の黒い犬やセリフで、ファウストをオマージュしていることを伝えている。黒澤明が型を使ってシナリオを作っていたことがわかるし、結局ファウストとはまるで違うオリジナル作品に仕上がっていることもわかる。
『七人の侍』
シナリオが行き詰まって、コメディリリーフが必要だと気づく。そこから、三船敏郎演じる菊千代が生まれる。『壊滅』のモロースカという人物をベースに、善兵衛という人物をつくろうとしたがうまくいかず、『戦争と平和』の道化役チーホンの要素を取り入れて、菊千代になっていった。
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